第7話、鬼ごっこ開始
Vライフへ、ようこそ!
夢と希望のVR世界を、お楽しみください。
プラットフォームが読み込まれていく。
Vライフに入った時の最初の空間。
いつもは1人だけど……
「時雨ちゃあああああん!」
今日は同じ空間に、時雨ちゃんがいる。
回線が同じだからだ。
「会えて嬉しいよ時雨ちゃん!」
「あ、ちょっと、あんま近づかないで」
「塩対応の時雨ちゃんも可愛いよ!」
「違うから、あんた、ほっぺた。
マーク、消えてない」
へ? ほっぺた?
ピンクのダイヤの事?
僕は慌ててアバター着せ替え画面をだしてみる。
目の前に、自分にアバターが映る。
「あ、ほんとだ」
マゼンダと、ピンクのダイヤが2つ、
縦に並んで。
「ブロックノイズ立ち上げてないのに」
このマークはブロックノイズスパムを
立ち上げてる時だけ出るはず。
でも、どんなにフェイス設定を変えても
消えない。
「開発モードで落としたから、マークだけ
残ったのかもね」
「じゃあ、僕ずっとこのまま?」
「良いんじゃない? ピンクドットが
そのマークって運営しか知らないし、
似合ってるよ、シカクたん☆」
マジで? じゃあ、まぁいいか。
「あんた、マジ単純」
え? なに? なんか言った?
振り返りながら着せ替え画面を閉じる。
「そんな事より、配信時間迫ってるから、
飛ぶけど良いわね」
「もちろんだよ、時雨ちゃん」
「わかってるね。目的、忘れないで」
「うん、鬼ごっこで時雨ちゃん捕まえて
告白台詞、読んでもらう」
「違ああああああう! ジャックボットが
出たって報告が来たら向かう。
犯人を探す」
「あ、そっち?」
「そっちしかないからね!」
ダイブゲートが2つ、目の前で開く。
空色の扉から、光が漏れる。
それぞれの扉に、飛び込んだ。
◇……… ◆…… ◇… ◆
広い世界が読み込まれる。
空、山、大地、海、たっぷり広い、
野外フィールド!
バーチャルなのに、風も日の光も
感じる気がするー。気持ちいい!
今回はリスナー全参加だから、
誰でも入ってこれる。
開始地点に、リスナーが集まってる。
知ってる人も新規の人も、そして──
「やぁ、シカク君、今日も幸せそうだね」
そんな声を聞いた気がして、振り返る。
そこに彼は、いなかった。
「あ……そうだった」
いつも話してくれる友人は、
昨日、ブロックノイズに飲まれたのだ。
ブロックノイズスパムに感染すると、
二度とログインできない。
「死ぬ訳じゃないから」
彼はそう言ってたけど。
「二度と会えないってのは、死んだのと
どう違うんだ?」
僕の呟きは、誰にも聞こえずに消えた。
ダメだ。落ち込んではいられない。
時雨ちゃんが心配する。
配信を盛り上げなきゃ、
僕は気をとりなおして、顔をあげた。
◇◆◇◆
「みんなー、来てくれてありがとおお」
配信時間になって、
少し高い丘の上から、
時雨ちゃんが現れた。
「しっぐれちゃああああああん!」
「今日は、みんなで時雨を捕まえろ!
リスナー全参加鬼ごっこだよおお!」
「楽しみにしてたよーーー」
「ルールは決めた通り、時雨は速度20で
みんなは速度10だからねー
最初に捕まえた人に、
時雨が告白台詞読むよー!
きゃあ、恥ずかしい☆」
「可愛いよおおお、時雨ちゃん!
時雨ちゃあああああん!」
「あ、ちょっと、ミュートするね。
みんな待っててね」
時雨ちゃんの姿が、一時的に消える。
その場所に『pause』の文字が浮かぶ。
一時的にVRゴーグルを外すとこうなる。
どうしたのかな、トイレかな。
なにかリアルでよっぴきならない事が。
ガチャと、近くで扉を開く音がした。
「こらー! シカク!」
すぐ近くで、ヤナギの声がした。
「は? なに?」
僕も慌ててVRゴーグルを外す。
自分の部屋と、怒ったヤナギが居る。
「は? なにVR中にリアルで来てんの?
てか、勝手に僕の部屋入ってこないで」
「お前うるさいんだよ。お前の声、
向こうの部屋まで聞こえてんの!
こっちのマイクで拾うから困んの」
「だって、時雨ちゃん遠くにいるじゃん
声ださなきゃ、聞こえないじゃん」
「リアルで聞こえてるから!
バーチャルでは数十メートル先でも、
リアルでは壁の向こうにいるから!」
「ヤナギが聞こえてるかどうかは、
知らないよ。時雨ちゃんに届かなきゃ
意味ないじゃん!」
「だから聞こえてるって言ってんじゃん」
「お前じゃないって、言ってんじゃん」
はぁ……ヤナギはため息を1つついて、
諦めたように。
「分かった。お前と個人的に、
ディスコード繋ぐ」
と、呟いた。
「へ?」
ディスコードはゲーム中に
相手と通話しながらゲームする為の
通話アプリ。
「個人的にお前の声だけ聞こえるから、
だから声を張り上げるのは、やめろ」
「いいの?」
「どうせ、なにかあった時の通信用に
必要だったから」
「分かった、DMでID送るからね!
つないでね、時雨ちゃん」
思わず口に出て、慌てて口を押さえた。
「ん? 今……」
「なんでもない、何も言ってない。
早くVRに戻って、皆待ってる」
「はいはい」
戻っていくヤナギの姿をみながら。
あんなヤツ、絶対、時雨ちゃんじゃない
断じて違う、認めない。
僕はひとつ息をついて、
VRゴーグルをつけた。
バーチャルの世界で本物の時雨ちゃんが
みんなに手を振っていた。
「みんなー☆ おまたせー!
じゃあ『リスナー全参加、鬼ごっこ』
はっじ、めるよー! ツイートして!」
沢山のリスナーからツイバトが飛んだ。
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【次回予告】
「なにあれ、ダイブゲート?
いや、ジャックボット!」
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【出演Vtuber】感謝御礼!
久不シカクさん
https://twitter.com/cube_connect_
月下時雨さん
https://twitter.com/Gekka_Shigure
(時雨さんは実際は男Vさんです)