第6話、ソファーでツイッター
朝、起きるとスマホを見る。
ツイッターの通知確認だ。
何もない。
時雨ちゃんは、まだ起きてないらしい。
夜からツイッターが更新されてないなー
とか考えながらリビングに行くと、
ソファーでヤナギが寝ていた。
うわっ……そうだった。
昨日から、うちにいるんだった。
「ちょっと、起きてよー」
声をかけて、乱暴に揺すって、
なんなら足で蹴っても、起きない。
ソファーで寝て良いとは言ったけど、
「朝には起きてよ、ソファー座れない。
どいてよ、ヤナギー」
声をかけても、全然起きない。
だいたいなんでこんなのが、
時雨ちゃん、やってんだ。
すました顔して時雨ちゃんの権利を
所有してるとか、マジギルティ!
時雨ちゃんを好き勝手出来るとか、悪!
ほっぺたツネってやろうか! と、
顔を覗き込んでいたら、
パチ、とその目が開いた。
「うわっ!」
ヤナギは僕の顔を見て叫んだ。
「何やってんの、お前」
「いや、朝だからどいて。
ソファー、座るから」
「あ? あー……はいはい」
ヤナギがのっそりと身体を起こす。
開いたスペースに、ドスンと座る。
なんか体温残ってるのが嫌。
「もう! 時雨ちゃんのおはツイに
リプ遅れたらヤナギのせいだから」
リプは、ツイートにする返信の事。
おはようツイートに、返信を返すのが
毎日の楽しみ。
ソファーに座って、スマホをいじる。
これは、毎朝の時雨ちゃんとの
大事な、至福の時間。
「お前……何やってんの?」
「時雨ちゃんのツイッター調べて、
まだ起きてないのかなーって思ってる」
「いや、今、起きたから」
「あんたじゃないから。
時雨ちゃんだから。
今日の、おはツイまだかなー」
「おはツイ画像作ってないから、まだ」
「だから、あんたじゃないから!
顔でも洗ってこい、こらぁ!」
「へいへい」
ヤナギは洗面所の方に歩いていく
Tシャツとジャージ姿。
寝起きがスロースタートなの、
なんか兄貴みたいだ。
男は、みんなそうなのか?
なんか、げんなりする。
いや、そんなヤナギなんかに
かまってられない。
時雨ちゃんの今日の活動予定確認して、
リツイートしなきゃ。
いそいそとツイッタの推し事していると
「お前、朝食とか食わんの?」
ヤナギが戻ってきて、
キッチン覗きながら聞いてくる。
どうやら着替えたらしい。
「食べない。作らない」
「そんなんで、良く持つなー」
キッチンを見れば、料理をしない事。
毎日、カップ麺とか、レトルトばかり
食べてるのは、誰にでも分かる。
「立派なキッチンなのに」
「文句があるなら、作っても良いから。
僕のも作ってよね」
悪態つきながら、画面を見ていると、
「あ、時雨ちゃんから、いいね、来た!」
「今、俺がしたからな」
「時雨ちゃん起きた!」
「数分前から知ってただろ」
「今日どんな寝起きだったのかなー」
「お前に蹴られて、たたき起こされた」
「うるさい! 黙ってろ、中の人!
お前じゃねぇって言ってんだろ!」
そうだ、今考えてるのは時雨ちゃんの
超絶天使の時雨ちゃんの朝の始まりを
共有してる大事な時間。
ヤナギは諦めたのか、何も言わず、
ソファーの、僕の隣に座って
ノートパソコンを開いた。そのうち
ピコン! と
僕のスマホが通知音をだした。
「あ、時雨ちゃんの、おはツイ!」
『みんな! おはよう☆
今日は、グレープフルーツの日!
時雨のもぎたてフルーツを召し上がれ!
甘酸っぱくて美味しい〜よ☆』
「あーグレープフルーツ食べてるー。
この画像見たことないー」
「今、作ったからな」
「可愛いよー、この、おは画像ー!」
「そりゃ、どうも」
「リプしなきゃ!
『おはよう! 時雨ちゃん!
今日は寝坊しなかったんだ。えらいね。
今日の配信行くからね』っと」
時雨ちゃんは、いつも
すぐに、いいねとリプを返してくれる。
『シカクたん☆ おはよう!
えらいでしょ! 褒めて褒めて。
配信きてくれるの、楽しみ☆』
「あー、時雨ちゃんが褒めてーって。
これは、まだリプ続けるべきかなぁ。
それとも、いいねだけでやめるべき?」
「好きにすればいいだろ」
隣でカタカタと、ヤナギがキーボードを
打ち続けている。
たぶん、リプ返だ。
時雨ちゃんのおはツイに来る、
毎日100を超えるリプの返信。
時雨ちゃんは全てのリプに返信をくれる
天使だ。
僕は少し考えて、しばらく悩んで、
ソファーから立ち上がった。
「ん?」
ヤナギは僕を見上げる。
「結局、しないの? リプ返」
「時雨ちゃん、沢山の人にリプもらうし」
毎日100以上の、リプを返してる。
「リプ続けたら大変だし、迷惑だし」
僕は今日、1つリプ返もらったし、
それで満足するべきだ。
「ふーん」
ヤナギは興味なさなそうに呟いて。
「大変だと、思った事はないけどな」
と、キーボード叩きながら言う。
「おはようって言ったら、
おはようって返してくれる人がいる、
話しかけたら喜んでくれる人がいる。
そんな人との会話が、何人いようが
迷惑な訳ないけどな」
ヤナギの声は、相変わらず無愛想で、
時雨ちゃんの声とぜんぜん違くて。
でも前に時雨ちゃんは言っていた
『え? 別に大変じゃないよー。
みんなと話せるの、すっごく嬉しいの。
みんなのリプで元気をもらうの。
だからどんどんして! どんなリプも
嬉しいの! 元気をもらったら、
またみんなに元気返すからね!
時雨の元気は、みんなのパワー☆』
僕はいつも、
時雨ちゃんに元気をもらってる。
僕はボスんとソファーに座って、
スマホを操作する。
しばらくして、ヤナギが操作する画面に
僕のリプが表示された。
『いつも、元気をありがとう』
それを見て、ヤナギはふっと笑った。
こいつの笑う顔、初めてみたな、と
僕は思った。
少したってから──おそらくは
全てのリプ返が終わった最後に、
時雨ちゃんから、リプ返がきた。
『こちらこそ、だお☆
シカクたん、いつもありがとう』
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【次回予告】
「こらー! シカク!」
「は? なにVR中にリアルで来てんの?
てか、勝手に僕の部屋入ってこないで」
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