第58話、青空の下
ここは、どこだろう。
空が真っ青で、気持ち良い。
時折、風が吹いて、
顔に当たって気持ち良い。
顔? あれ……
僕は目元に手をやる。
「え? VRゴーグルつけてない」
VRに入る時は、必ず必要な、
ゴーグルの感触が、無かった。
風の感覚が、あるのもおかしい。
それは、VRには存在しない。
じゃあ、ここは? ここはどこ?
「ここは、君の意識の中だよ」
後ろから声がして、振り返る。
ちょっと高い段差の上に、
旅鳥テトが座っていた。
こっちに両足を投げ出して。
「意識の中?」
「そう、君の頭の中、脳内。
君が作り上げてる空間だよ」
その聞きやすい、透き通った声で、
教えてくれる。
と、言うかですね!
「見下されアングル最っ高です!」
ちょっと高い位置に座られて、
両足の膝の裏を見ながら、
見下ろされるの最高!!!!
「下から見ると、おみ足がさらに優勝!」
僕が叫ぶと、
ふふっ、とテトが笑う。
「相変わらずだね、シカク君」
シカク君?
「なんで、僕の名前、知ってるんです?」
「俺は監視ツールだから。
ずっと見てたよ、君の事」
ポン、とテトは飛び降りて、
僕の隣に立つ。
「ほら」
テトが右手を上げると、
どこからか、青いハトが飛んできて、
テトの手にとまる。
あれ?
この偵察バト、どっかで見たような……
青いハトは僕を見て、ふんす、と
得意げに笑う。
「あ! 君、あの時の!」
野外ステージで引っかかってて、
VS歌みたステージで
渚クンと戦ってくれた子。
手を伸ばすと、バサバサと嬉しそうに
僕の手にとまってくれた。
ふんす、とまた、満足げに笑っている。
「でも、この子、兄貴に消されたはず
どうして?」
「ここは、君の意識下だから。
だから、まだ消されてない」
ん? どゆこと? 訳が分からない。
首を傾げた僕に
「説明は難しい」
と、旅鳥テトは笑った。
「この子が、テトさんだったって
事ですか?」
「違うさ。俺は見れるだけだから。
この子達は、それぞれ、みんな
違う意識を持ってる」
それぞれ? みんな?
テトが両手を広げると、
後ろからバサバサッと
何羽ものハトが飛び出した。
いきなりやられると、ちょっと怖い。
「だから、その子が君の味方をしたのは、
その子の意思だよ」
僕の手の上で、ハトが偉そうにする。
そうか、渚クンを追い払おうと
してくれたのは、君の意思なんだ。
そして、渚クンは、
この子を、攻撃する事が出来なかった。
だから、あの時、逃げたのだ。
復活させようとしているものを、
自分で消す訳にはいかないからだ。
旅鳥テトが、
「戻っておいで」
ハトに呼びかけて、
僕の手元の子は戻っていく。
テトの後ろの無数のハトの1羽になる。
「さぁ、教えて、シカク君」
旅鳥テトは僕に笑いかける。
「君は、どんな決断をしたの?」
「僕は──」
僕は一度、青い空を眺めてから
「Vライフを、あるべき姿に戻します」
話し始める。
「正しい姿に、元の姿に戻します」
「それはどうして?」
「すべては、僕が原因だから」
Vライフの歪みは、全部、僕のせいだ。
チートも、ブロックノイズスパムも、
渚クンも、すべて僕が原因だ。
僕はいなければ、こうならなかった。
僕が、こうした。
「だから戻します。本来のVライフに。
みんなが安心してゲームできる、
以前の姿に」
罪を犯したのは僕だ。僕だけだ。
僕は襲撃事件をおこし、
チートをして、時を止めた。
渚クンは僕の意識のコピーだ。
彼は、僕なんだ。
ずっとはじめから、僕だけが原因だった
「だから、僕が直さないといけない。
僕にしか直せない」
「それは、君がしたくなくても?」
旅鳥テトは、
すべて知っているように言う。
「したくなくても、
やらなきゃいけないんです」
僕はいつだって、自分がしたい事を、
自分がしたい為にやっていた。
でもそれじゃダメだったんだ。
だから、こうなったんだ。
ははっ、と旅鳥テトは笑う。
「それが、君の選択だね」
僕は頷く。
「監視ツールは、見る事しかできない。
判断するのは、人間の役目。
君は判断をした。それが君の答えだね」
「ごめん、なさい……僕は、
あなたがたプログラムにとって
最悪の選択をします」
「君が気に病む事は無いよ、ほら」
旅鳥テトが左手を向ける。
そこに、ブゥンとエフェクトが走って
時雨ちゃんが現れる。
「え? 時雨ちゃん?」
「AIのほうのね。白時雨ちゃん」
「え? どうして?」
「ここは。君の意識下だから、
そういうの自由自在」
ちょ! どんな仕組みなのそれ!
白時雨ちゃんは僕の方をみて、
パチパチと瞬きしてる。
可愛い……やっぱり可愛い。
「白時雨ちゃん……あのゴメン……
僕はやっぱり君が大好きで、
君を、推してたい」
僕はそれに気がついた。
黒時雨ちゃんは、最高だ。
でもやっぱり、時雨ちゃんの
いつもの姿が、好きなんだ。
「そして君の中身は
ヤナギじゃなきゃダメなんだ」
時雨ちゃんは僕の全部だ。
それはヤナギが中にいるから、
そうなんだ。
「僕は、ヤナギが気持ちよく
時雨ちゃんを出来るように、
全力をつくす」
推すってのは、
相手が活動しやすいように、
続けられるように、広まるように、
相手の事を考えて、応援する事なんだ。
それが、結果、白時雨ちゃんを失い、
渚クンと対立する事になっても。
「僕は、ヤナギの為に全力をつくす。
時雨ちゃんを、ずっと推したいから」
苦しい想いを吐き出す僕に、
「じゃあ、シカクたん☆ は、
まだ時雨を推してくれるんだね!」
と、時雨ちゃんは明るい顔を見せる。
「うん、もちろんだよ。
僕は時雨ちゃんが大好きだし、
僕は時雨ちゃんを一生推すって、
決めたんだ」
「じゃあ、時雨は消えないよ
時雨は、ずっと時雨として、
シカクたん☆ が推してくれる限り
そこにいるよ」
「え? ほんとに?
「時雨はファンを増やすAI。
シカクたん☆ がファンでいる限り
そこにいるの」
時雨ちゃんが笑う。にっこりと。
僕が大好きな天使の笑顔で。
あぁ……
僕の目からボロボロと涙が流れる。
「時雨の事、忘れないでね」
「忘れない……絶対に。
僕は、時雨ちゃんが大好きなんだ。
ずっと……」
笑顔の時雨ちゃんが、
白い光に包まれて、消えた。
止める暇も無かった。
ボロボロ泣いてる僕に、
「黒い方のの姿には、未練は無いの?」
と、旅鳥テトが台無しな事を聞く。
「いや、たまには衣装チェンジして
見せて欲しいと思ってます!
有力課金でも可!」
あははははっ、と、旅鳥テトは
気持ちよく笑ってから、
「それでこそ、人間だね!」
と、アンドロイドっぽい台詞を言った。
「さぁ、そろそろ戻ろう。
君はまだ、やらなきゃならない事が
あるんだろう?」
そうだ、僕には、まだ……
「でも、あなたは? 大丈夫?」
旅鳥テト、それはツイバトに変わられた
今は使われない監視ツール。
「俺は平気。
俺は旅鳥。空と、人の意識の中なら
どこにだって行けるんだ」
ニッっと、
それはそれは魅力的な笑顔を見せて。
「ずっと見てるから、君の事。頑張って」
「はい!」
風が吹き荒れて、
青いハトが一斉に飛び立った。
彼女の笑顔を最後に、
僕の意識は薄れだして、
また気を失った。
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【次回予告】
「おい、大丈夫か? 気が付いたか?」
「ヤナギ! 僕のVR持ってきて!
すぐにINする」
「は? なにだって?」
「Vライフの、時を動かす」
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【出演Vtuber】感謝御礼!
久不シカクさん
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狛犬渚さん
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旅鳥テトさん
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月下時雨さん
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(時雨さんは実際は男Vさんです)




