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第51話、2つの世界

挿絵(By みてみん)


『 白時雨ちゃん VS 黒時雨ちゃん

  VS歌みたコラボ オンステージ! 』


 2週間後の土曜の夜に設定された、

 そのイベントは大々的に発表され、

 公式トピックスにも乗ったし、

 WEB雑誌にも特集が組まれた。

 まとめ記事がつくられ、

 どっちが勝つか予想するのが流行った。


 白時雨ちゃんが勝ったら、

 黒時雨ちゃんが引退。


 なんて約束はもちろん公表されてない。

 多くのユーザーは、運営がやってる

 イベントの1つとして、

 お祭りのように騒いでいた。


 そして、その盛り上がりは、

 新規ユーザーを産み、Vライフの

 ユーザー獲得に大いに貢献していた。


 ヤナギの対立を煽って

 ユーザーを獲得するという企画は、

 成功した事になるんだろうなぁ。


 と、ボンヤリ考えながら、

 2週間すごして。


 そのVS歌みたコラボイベント当日に、


「いや、わりぃ」

 僕のうちに、ヤナギが来た。


「俺んち、配信禁止を言い渡された」

 玄関で、入るなり、

 それはそれは、無愛想に。


「はぁ?」


「いや、最近、夜とかもゲーム配信

 してたり、24時間耐久歌枠とか、

 やってたから、夜中までうるさいって

 苦情きて。配信はやめろ……って」


「どぉすんの! それどぉすんの!

 VS歌みた対決、今夜だよね!

 負けたら引退だよね!」


「分かってるよ」


「公式もあんなに煽ってたし、

 今更中止もできないよね!」


「いや、だから……その」

 ヤナギは歯を食いしばって、

 嫌そうに、悔しそうに。


「お前んちでやらせて、配信」


 あ……こいつは何を言ってるんですかね。


 僕はグルグル回る頭の中で、

 湧き上がる感情を処理できなくて、

 ギウと両手を握りしめた。


「そ、んな事の為に、僕の所に来たと」


「だから、わりぃって」


「僕に、なんの報酬があるんですかね」


「朝食、作るから」


「甘いヤツ?」


「甘いヤツ。お前、どうせ、まともな物

 食ってねぇんだろ?」


 その通りですよ!

 その通りですけどね、そんなんじゃ!


「足りない」


「は? なに」


「それ、だけじゃ、たりない」


「他に、なにしろって言うんだよ」

 はぁ、ヤナギがため息ついて言う。

 とっても、嫌そうに。


 あぁ、どうして、僕はこんな男に──


 僕はその無愛想な顔を見上げて、

 軽く手を広げ、ムっとした顔で言う。


「ギュ、って……して」


 ヤナギは数秒、黙ってから。


「わかったよ」


 ギウと僕を抱きしめた。

 固まった心がジワリと濡れる。

 懐かしい匂いがした。

 それを、思いっきりすいこんだ。


「ソファーで、もっと、ギュって、して」


「へいへい」


 ヤナギは荷物をそこに置いて、

 僕を抱き上げて、

 ソファーまで運んでくれた。



  ◇◆◇◆



「なんで、僕だったの?」


 僕はソファーで、ヤナギの胸に

 顔をつけたまま聞く。


「なにが」


「僕、別にすごく可愛いとかじゃないし

 お金がある訳でもないし」


「なんの話だよ」


 ヤナギが僕の頭なでながら、

 極めてぶっきらぼうに。


「だから、僕みたいなファン、

 どこにでもいるじゃん

 別に、僕じゃなくてもさ」


 僕をファンにしたい。

 僕に推される為に、

 Vtuberを、黒時雨ちゃんを、

 始めたと、ヤナギは言った。


 なんで、僕でなければならないのか。


 セナさんは、

 無条件で味方になってくれる人間は

 貴重だ、と言った。


 でも、やっぱりそれは、

 僕でなくても、いるはずで。

 

 僕は、ヤナギの身体を抱きしめる。


 ヤナギは少し考えて、

「Vtuberやってるとさ」

 話し始める。


「どっちが本当の自分か、分からなくなる」


「本当の?」


「世界が、2つに別れるんだ。

 リアルの自分、VRの自分。

 そして、どっちかが本当になると、

 もう片方はニセモノになる」


 リアル世界と、VRの世界。


「ニセモノになったほうは、辛い

 まるで、ずっと夢の中にいるみたに

 ふわふわしてて苦しい。

 それが、リアルでも、VRでも」


 そんなもんなのか、と

 僕はヤナギの胸で聞きながら思う。


「でも──」

 と、僕の頭を撫でて。


「お前といると、どっちも本物になる」


 え?

 僕は顔をあげて、ヤナギを見た。

 ふんわり笑って、僕を見ていた。


「リアルも、VRもどっちも自分に思える

 世界が倍になるんだ。

 お前の隣にいると、たしかにどっちも

 生きてられる」


 世界が倍に?


「だから俺は、リアルでもVRでも

 お前の隣にいたいし、応援されたいと

 思った。どんな手を使っても。

 1つしかない世界が、お前の隣だと

 2つになる。お前は、すごい」


 あぁ、ずるい。

 そんな優しい顔で、言われましたら。


「あと、お前は、すごく可愛いからな」


 な!……ふいうちーーー! 


 僕は赤くなってく頬を隠すように

 また、ヤナギの胸に顔をつけた。


「で、でも……僕、まだ

 白時雨ちゃん推してるからね」


 胸にスリスリしながら、

 せいいっぱいの強がりを口にする。


「分かってるよ。だから言ったろ。

 それは、奪う。覚悟しとけよ」


 ギウと、抱きしめられて、

 何も言えない。


 VRはともかく、リアル世界では、

 僕はもう奪われてるんだろうな、


 と、抱きしめられながら思った。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

【次回予告】


「みんなー! 今日は来てくれて

 ありがとーーーー!」


「みんなー! 今日はあなたに会えて

 うれしいーーーーー!」


「時雨がピンクのハートだからね!

 みんな! ピンクのハート投げてね☆」


「あたしが黒いハートだからね!

 あなたの気持ち、受け取るからね★」


いつも応援ありがと☆ 毎日更新するよ!

 最新話まで読了ありがとうございます。

 よろしければ、

 下の☆☆☆☆☆で評価を下さると

 モチベにつながります。

 これからもよろしくお願いします。


【出演Vtuber】感謝御礼!

久不シカクさん

https://twitter.com/cube_connect_

狛犬渚さん

https://twitter.com/Wan_1_nagisa

月下時雨さん

https://twitter.com/Gekka_Shigure

(時雨さんは実際は男Vさんです)

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