第50話、天国で地獄
コレは天国なんでしょうか?
それとも、地獄なんでしょうか?
「あんた、なんで居るの?」
白時雨ちゃんが、僕の右側で叫ぶ。
「それは、こっちの台詞だからぁ」
黒時雨ちゃんが僕の左側で答える。
2人の時雨ちゃんに挟まれているという
天国だけどさ……
僕のアバターは多分顔を引きつらせて、
おっそろしいほどに動揺しまくって
いるだろう。
えぇ、リアルの僕がそうだからです。
「シカクたん☆ は、今から
時雨とデートするんだからね」
白時雨ちゃんが僕の腕を掴む。
これは、一体どんな状態?
「あれぇ? シカクたん★ってぇ、
今日、私のシチュボ枠にくる為に
INしたんじゃないのぉ?」
黒時雨ちゃんが覗き込みながら言って、
ビクっ、と僕の身体は震えた。
は? と、時雨の顔が変わる。
「そうなの? シカクたん☆」
「いやっ、そのそれは……」
その通りだ。
僕は、今日黒時雨ちゃんの配信に
行こうと、VRに入った。
「そうだよねぇ〜 シカクたん★」
黒時雨ちゃんが、実に妖艶な顔で、
まるで獲物を弄ぶ悪魔のように、
僕の顔を覗きこんでくる。
あぁ、これは地獄で間違いない。
「なんで? シカクたん☆」
白時雨ちゃんが怖い顔して聞いてくる。
「いや、その。黒時雨ちゃんが、
シチュボ読む配信するって……」
「シチュボなら、時雨も読むよね?」
「いや、あの、それが、
ヤンデレわからせ台本だって……」
あ? と、白時雨ちゃんが怖い声だす。
ひ、久々の怒った時雨ちゃんは、
最高ではありますが。
「ヤンデレとか、わからせとかって、
時雨ちゃん基本やらないから……」
と、白時雨ちゃんに言い訳を続ける。
白時雨ちゃんは純潔を売りにしてる所が
ある。シチュボも、告白シチュとか、
甘々が主で、ヤンデレとかはしない。
正統派アイドルみたいなキャラなのが
白時雨ちゃんだ。
対して、黒時雨ちゃんは、
服装の露出率も高いし、
ヤンデレもわからせ配信もするし、
ホラーゲーム配信もすれば、
R指定のファンアートも許容してる。
ニヤニヤしながら、黒時雨ちゃんが
こっちを見てくる。
その顔で見られるとドキドキする。
「今日読むシチュボはぁ『ヤンデレ妹は、
お兄ちゃんを、わからせたい』だよ★」
マジで! めっちゃ聞きたい。
黒時雨ちゃんに『お兄ちゃん!』
って、言われたい。
どうヤンデレになるのか見たい。
そんな顔するのか見たい。
ふふふ、と笑って、
黒時雨ちゃんが、僕の頬を撫でる。
感触が無いはずなのに、
ゾクゾクする。すごく魅力的。
黒時雨ちゃんは、白時雨ちゃんより、
肉々しくて、セクシーで、
なんでもするというか、
とにかくファンのほしい物をほしいだけ
シテくれる。
そして、それが可愛い。
もうとにかく可愛い。
「シカクたん☆
なにデレデレしてるのかなー」
白時雨ちゃんが、笑顔なのに怖い。
いや、あの決して浮気をしている訳じゃ
「ねぇ、シカクたん☆
黒い方の配信なんて、暇な時に
アーカイブで見ればいいじゃない?
だから、今日は時雨とデートしよ?
時雨とデートできるの、今だけだよー」
白時雨ちゃんが、僕の腕掴んだまま
言ってくる。
アーカイブ? あぁ、アーカイブか。
「あの、黒時雨ちゃん、アーカイブって」
僕が恐る恐る聞くと、
黒時雨ちゃんは、んー? と笑ってから
「残すワケないじゃん、バーカ」
全力で煽る顔をして、舌を見せた。
その顔、可愛いです、
あとでイラスト下さい!!!!!!
「あたしの、エロくて病んでて、
デレッデレのわからせ配信、
聞きたかったら、来るしかないよ?
どうするの? シカクたん★」
いやそれは、
聞きたいです! 行きたいです!
そのつもりでINはしたんだけど……
でも……
「むむむむむぅ」
白時雨ちゃんの、そのアニメみたいな
怒りの表現、どうやって声だしてんの
どこから出てるの。
「あんた、さっきからなに?
ひとの古参ファン、奪うのやめて!」
白時雨ちゃんが、叫ぶ。
古参だと思ってくれてたの嬉しい。
「は? 何言ってんの?
シカクたん★は、あたしの配信に来た
って、言ってるじゃん。
奪ってるのそっちでしょ?」
黒時雨ちゃんが応戦する。
はい、その通りではあります。
「シカクたん☆ は、時雨推しなの!」
「だからなに?
推し以外の配信に、行くなって?
誰を応援するのもリスナーの自由だし、
推し変も、リスナーの自由だよね!
シカクたん★があたしの配信の来ようが
推し変しようが自由だよね!」
いや、推し変するって言ってる訳じゃ
ないからねー!
なにこれ、なんか僕抜きで
話すすんでない?
なんでこんなバチバチなの?
いや、必然? これは必然ですか!
僕は何に巻き込まれてるんですか!
「そんなに言うんだったら、時雨と
勝負して! VS歌みたステージで!」
叫んだのは、白時雨ちゃんだ。
「へぇ? なに、勝てると思ってるの?」
「時雨が勝ったら、Vtuberやめて」
白時雨ちゃんが、
黒時雨ちゃんを指して、言い放つ。
え? 黒時雨ちゃんの引退をかけて
VS歌みたステージやるって事?
ファンの投げるハートの数で競う
VS歌みたステージ。
ファン数は、まだまだ白時雨ちゃんが
多いはずだ。
そんな事をしたら、黒時雨ちゃんが……
僕の不安をよそに、黒時雨ちゃんは
ふふん、と笑って、
「いいよ★ あんたが勝ったら、
Vtuberやめる。いっさい活動やめて
完全引退してあげる」
と、約束してしまった。
良いのか? 本当に良いのか?
黒時雨ちゃんは、初めたばかりだが、
注目されだしてきた、
今が1番大事な時期なのに
「その代わり、あたしが勝ったら★」
黒時雨ちゃんが、勝ったら──
白時雨ちゃんの引退?
もしくは、僕に推し変しろーとか?
黒時雨ちゃんは、小悪魔笑顔で
僕の顔を覗き込んで、
「シカクたん★ が」
あぁ、やっぱり推し変?
「あたしに、チューして」
……へ?
パツと音を立てて、時が止まった。
「は? え? ん?」
「だからぁ、あたしが勝ったら、
あたしにキスしてよ、シカクたん★」
ちょ……ちょ、ちょ、ちょっと待て、
コレはなんだ、なにが起きてる。
ふふっと笑って、黒時雨ちゃんは
顔を近づける。いやいや、え?
「なにそれ、どういう事?」
白時雨ちゃんが、
訳が分からない、という顔をする。
ちょっと待て、
これはどんな因果応報だ?
「ちょっと、黒時雨ちゃん、それは……」
「やるの? やらないの?」
僕をまっすぐ見て言い放つ。
あぁ、目が座ってる。これは……
本気なんですね。
「や、やります」
僕は、そう答えるしかない。
「じゃあ、きまりね。VS歌みたステージ。
白いあんたが勝ったら、あたしは引退
黒いあたしが勝ったら、シカクたんが
あたしにチューする」
「わかった」
わからないで頂けますか、白時雨ちゃん
ねぇ、待って、本当に待って……
「覚悟してなさい、黒時雨!」
白時雨ちゃんが黒時雨ちゃんに言う。
「覚悟、しててよね★ シカクたん★」
黒時雨ちゃんが、僕の耳元で、呟く。
あぁ、覚悟って、そういう……
僕は疲れた頭で、黒時雨ちゃんを見て
「もう……チートが、すぎる」
苦情を言った。
黒時雨ちゃんが、嬉しそうに笑った。
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【次回予告】
「俺んち、配信禁止を言い渡された」
「はぁ? どぉすんの!
VS歌みた対決、今夜だよね!
負けたら引退だよね!」
「お前んちでやらせて、配信」
「僕に、なんの報酬があるんですかね」
「朝食、作るから」
「それ、だけじゃ、たりない」
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【出演Vtuber】感謝御礼!
久不シカクさん
https://twitter.com/cube_connect_
狛犬渚さん
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月下時雨さん
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(時雨さんは実際は男Vさんです)




