第49話、街角デート
Vライフの時間は止まってる。
それを動かせるのは、僕だけ。
時間は僕の為に止まってるから。
渚クンがVRに存在するためには、
僕が必要。僕と彼は同一だから。
僕がログインしないだけで、彼は消える
「シカク君、どうしたの?」
いきなり現れた渚クンに、
驚かなくなったのは、いつからだろう。
「いや……別に……」
僕は渚くんの方を振り向きもせずに、
歩き続ける。
「時雨ちゃんのライブも配信も、
今日は無いよ?」
「知ってる」
「じゃあ、何をしにINしたの?」
その質問に、むぅと顔をしかめる。
「僕だって、配信と関係なく
VRで遊びたい時だってありますー」
そうだ別に良いだろ。
VRの街並み、外国みたいな雰囲気の
よくできた街並みだ。
アイテム購入や、クラブ作成に使う、
自由に出入り出来るステージ。
「そんな事言って、本当は
黒時雨ちゃんの配信行くんじゃない?」
渚クンの言葉に、ピクと僕が反応する。
歩くのをやめて、振り返って、
渚クンの顔を見る。
「僕が、黒時雨ちゃんの配信行ったら、
心配?」
「そりゃあね。困る。
僕は時雨ちゃんを推したい。
そういう風に生まれたからね」
本当に、それだけか?
僕の中で疑問が浮かぶ。
「それに、プログラム改変して、
乱入ステージぶつけてくるなんて、
許せなくない?」
許せない?
まぁ、確かにそれは分かるけど。
「酷いよね。
次、会ったら、なんとかしよう」
なんとか?
「君は、なんの話をしてるの?」
「黒時雨は許せないよね、って話。
そうだよね」
渚クンはいつものニコニコした顔で、
当然のように言う。
「僕は、別に悪いと思ってないよ」
まぁ、プログラム改変は
どうかと思うけど。
そういう演出だと思えば。
黒時雨ちゃんも、普通に活動してるなら
別に止める理由は無い。
「だから言ってるじゃあん。
シカク君は甘い、って」
もー、渚クンが呆れたように続ける。
「時雨ちゃんのファンが減ってる。
フェアじゃない方法で。
人のファンを奪ってる。
それが『悪』じゃなくて、なんなの?」
渚クンが首をかしげる。
その笑顔が怖く見える。
「『悪』は、正さなきゃ。
この世界の正義は、僕が守る。
そうだろう?」
僕の頭の中に、急速に昔の記憶が蘇る。
あぁ、僕も、そう考えてた。
僕がこの世界の秩序を守る。
僕がやらなきゃ、誰がやるんだ。
そうして、僕はユーザーを襲撃して
ピンクドットと呼ばれた。
渚クンは、あの頃の僕、そのままの君。
「ねぇ、渚クン」
「ん? なに?」
「君は、次に何をしようとしてるの?」
渚クンが、ピクっと反応した。
あぁ、犬耳、一緒に動くんだ。
「なんのこと?」
笑顔が消える。
「君が、次にしようとしてる事は何?」
──あのキツネが満足すると思ってるの?
セナさんは言った。
そうだ。満足するはずがない。
あの頃の僕が、そうだったんだから。
「時雨ちゃんのファンが減ると、
何が困るの?」
「ふふっ、教えると思ってるの?
ただでだえ、君は甘いのに」
──ダイヤちゃんには言えないでしょー
あぁ、どいつも、こいつも!
僕は、こみ上がる怒りを抑えながら
「今すぐ、それを教えるか、
今日は消えるか、
どっちかにしてくれるかな?」
絞り出すように言った。
渚クンは、ははっと笑って、
「分かったよ。今日は消えるよ。
じゃあ、またね、シカク君」
そう言って、ダイブゲート自分で作って
バタンと消えた。
いつもながらどういう仕組みなんだ、
それ。
はぁ、と1つため息をつく。
「僕は甘いのかなぁ……」
街並みを歩きながら、呟く。
何もかもに本気になれないから。
ポケカの時みたいにさ。
──本気で勝とうとしてみろよ。
ヤナギにそう言われたみたいに。
そう簡単に言わないでよね。
はぁ、と、もう1つ、ため息ついた時、
「あれぇ? シカクたん☆?」
視線の先のベンチに時雨ちゃんがいた。
白い方の。
「時雨ちゃん? なんで?」
今日は配信の予定はないのに。
時雨ちゃんは、ふふっと笑って、
ぽんっとベンチから立ち上がる。
ちょ、今の仕草、めちゃ可愛いー。
「だって時雨は、ずっと
この世界にいるんだよ?」
あ、そっか。
ログアウトしないのか。
だから、必ずこの世界のどっかに
存在してる。
「ね、折角会えたんだから、
時雨とデートしよ☆」
な! 可愛い! 小首かしげて、
上目使いで! なにそれ天使!
「ね☆ しよ? いいでしょ」
そう言って時雨ちゃんは僕に近づいて
僕の横で、腕を絡めてくる。
これは、腕を組んでる状態!
感触はないけど、触られてるきがする!
心なしか良い匂いもする気がする!
ドギマギしてる僕の横で、
時雨ちゃんは続ける。
「ショッピングしてー、一緒に海見てー。
あ、時雨のオンステージやったげる。
目の前でぇ、シカクたん☆ だけに」
それどんな天国! もう死ねる!
でもっ、あのっ……
「ごめん、時雨ちゃん、僕ちょっと
用事が……」
「えー、いいでしょ、ちょっとくらい。
こんなチャンスないよね? ね?
時雨、デートしたいなぁ」
いや、それは僕も山々ですがぁ……
と、ワタワタしてる僕を、
「なーにしてるのかにゃ★」
黒い影が覗き込んだ。
「へ? 黒時雨ちゃん!」
黒時雨ちゃんが、白時雨ちゃんの
反対側から、僕を覗き込んでいた。
「な! なんで!」
驚く僕を見て、黒時雨ちゃんは、
ふふんと、小悪魔みたいに笑った。
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【次回予告】
「あんた、なんで居るの?」
「それは、こっちの台詞だからぁ」
「シカクたん☆ は、今から
時雨とデートするんだからね」
「あれぇ? シカクたん★ってぇ、
今日、私のシチュボ枠にくる為に
INしたんじゃないのぉ?」
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【出演Vtuber】感謝御礼!
久不シカクさん
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狛犬渚さん
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月下時雨さん
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(時雨さんは実際は男Vさんです)




