第48話、公式イベント
そんなこんなを、
次の日、セナさんに相談したら。
「あはははははははっ、あはっ、ははっ」
「笑わないで下さいよ! セナさん」
「いやー面白い」
「こっちは笑い事じゃないんですよ!
わかってます?」
僕はため息ついて、
出してもらったお茶を飲んだ。
急に連絡したわりに、
『会社の会議室でお昼やすみになら
話聞いてあげるよ』
と、お茶までだしてくれた。
「そうかー、ヤナギ君、ダイヤちゃんに
推される為にやってるんだ」
「そう、らしいです。なんでだろ……」
僕に推されても、特別良い事が
あるわけでも無いだろうに。
石油王でもないし。
別にどこにでもいる、ただのファン。
「まぁ、どんな時も絶対に応援してくれて
必ず味方になってくれる人ってのは、
すっごく心の支えになるから」
心の、支え?
「ダイヤちゃんはねー、
そういうの、いっぱい持ってるから、
ありがたみが分からないのよ」
いっぱい?
僕が持ってる、必ず味方になる人……
──お兄ちゃんは、いつも味方だからな!
──やぁ、シカク君。今日も幸せそうだね
あぁ、なるほど。
「そういうのは、あなたの魅力とか、
生まれつきの人徳だからねぇ」
ふふっと、セナさんは笑う。
「でも、持ってない人にとっては宝なの。
特に、持ってたのに、無くしたら
ありがたみに気がつくじゃない?」
だから、ヤナギは
急に黒時雨ちゃんはじめたのか。
「ま、頑張って欲しいわよね」
「そんな他人事みたいに言ってますけど、
セナさんが1枚噛んでるのは、
分かってるんですよー」
一週間そこいらで、3Dアバターやら
素材やら用意するのは、ヤナギ1人じゃ
無理だ。
「セナさんが作ったんですよね」
「ふふふ、ヤナギ君がね、自分で企画書
出してきたのよ」
「企画書?」
「月下時雨に、ライバルぶつけて、
対立構造盛り上げて、ユーザー増やす
そういう、イベント案」
セナさんは、また嬉しそうに笑ってから
「それが通って、予算が付いたの。
新しい月下時雨は自分でやるって、
ヤナギ君が言って」
か、会社ぐるみだったー!!!!
乱入ステージの公式バッチ、それか!
「だからって、既存のプログラム、
公式が改変するのとかぁ……」
「あらぁ、もう戻したから平気よ」
そういう問題じゃないだろう、
そういう問題じゃ。
「なんで、そんな嬉しそうなんですか」
「えー、そりゃあ。
私はこれでも入社3日の新入社員に、
Vtuberを無理矢理やらせてたの、
悪いなーって思ってたのよ。
本当はやりたくなかったんじゃないか
って」
まぁ、たしかに。
嫌々やってたように見える所も、
ヤナギにはあった。
「そんな、ヤナギ君がね、
自分で企画書書いて。
やりたいって、やらせて下さいって、
関係各所に、頭、下げてねー」
え? そうなの?
「だから嬉しいのよ。
またやりたい、って思ってくれて。
そっかー。
たった1人をファンにするために、
Vtuberはじめたのね。素適じゃない」
「そのたった1人の身からしたら、
気が気じゃないですよ」
「あら? ダイヤちゃん嬉しくないの?」
ニヤニヤしながら言われて、
う、嬉しいか嬉しくないかで言えば──
「嬉しい……ですがぁ」
顔が赤くなってるのを感じる。
どんな表情をして良いのかわからない。
──お前を取り戻す
そう言われた時、内心ホッとした。
嫌われたわけじゃ無かった。
捨てられたわけじゃ無かった。
それが分かっただけでも、嬉しかった。
「じゃあ、いいじゃない?」
「そういう訳にはいきませんよ」
「Vtuber始める理由は人それぞれだから
どんな理由だろうと、やりたいって
自分からいうんだから、
全力で応援したくなるじゃない?
だから、全力でデザインしたわけ」
そしてできたのが、黒時雨ちゃん。
たしかに、あのビジュアル最高です!
「そりゃ、一般ユーザーに許可もなく
勝手にこんな事したら問題だけど」
相手はAIだ。リアルで訴える方法など
持たない。
「でも、黒時雨ちゃんのセイで、
白時雨ちゃんのファンが
減ってきてるんです」
そう、黒時雨推しが増えてきて、
推し変するファンもいて、
別にそれが悪い事でもなんでもないが、
白時雨ちゃんは悲しんでる。
「でしょーねぇー」
セナさんが、ふふんと笑って、呟く。
え? この人、もしかして。
「まさか、白時雨ちゃんのファンを
減らすのが目的なんですか?」
セナさんは目を細めたまま、
斜め下に視線を反らす。
この人は、何を知っていて、
何をしようとしているのか、
まったく読めない。
「ねぇ、ダイヤちゃん」
「な、なんです?」
「バグプログラムがアカウント奪って、
時が止まったまま、めでたしめでたし。
──な、訳、ないじゃない?」
すごく、意地悪い言い方だ。
「どういう、ことですか?」
「このままじゃ、終わらせないし、
向こうもコレで満足する訳ないって事」
向こうって? 渚クン?
「でも、渚クンの目的は時雨ちゃんで
もう手に入ってますし」
「それで、あのキツネが満足すると、
本気で思ってるの?」
どういう事ですか……
あなたは、何を知ってるんですか……
「渚クンがやろうとしてる事って、
なんですか?」
「ダイヤちゃんには言えないでしょ。
だって、言ったら全部バレるでしょー」
そりゃ、そうかもしれませんが。
「とにかく、言いたいのはね」
と、セナさんが真顔になる。
「このままじゃ終わらせない。
プログラムごときに、私達が作った
Vライフを、好き勝手させない」
ゾク、と背筋が震えた。
まるで、自分に言われたような気がした
好き勝手してたのは、僕も一緒だ。
「時は取り戻す。
どんな手を使っても、ね」
「そ、それと、白黒時雨ちゃんの対立は
なんの関係があるんですか?」
「あら、決まってるじゃない?」
と、セナさんは本当に嬉しそうに。
「ダイヤちゃん、を、
どっちがモノにするかで、
決まるからよ」
と、笑った。
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【次回予告】
「あれぇ? シカクたん☆?」
「時雨ちゃん? なんで?」
「ね、折角会えたんだから、
時雨とデートしよ☆?」
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【出演Vtuber】感謝御礼!
久不シカクさん
https://twitter.com/cube_connect_
狛犬渚さん
https://twitter.com/Wan_1_nagisa
月下時雨さん
https://twitter.com/Gekka_Shigure
(時雨さんは実際は男Vさんです)




