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第44話、ブルースカイ


挿絵(By みてみん)


 朝、真っ先にスマホを見る。


「あれ? 時雨ちゃんが、

 もう、おはツイしてる」


 この時雨ちゃんは優秀だなぁ、と

 寝ぼけた頭で考える。


 ヤナギはアレでも

 朝はゆっくりしてたから。


 布団に入ったまま、ツイッターを開く。


『みんな! おはよう☆

 今日は、薔薇の日!

 あなたに薔薇をあげたいな☆

 何色が好き?』


 おぉ、薔薇いっぱいの時雨ちゃん。

 白い衣装にピンクの薔薇が、

 よく映える。

 

 画像とかどう作ってるんだろ。

 AIだから、自由自在なのかな。


 布団に入ったまま、おはようリプ、

 してみる。

 する。


『おはよう。薔薇いっぱいで可愛いね。

 黄色い薔薇が好き』


 すると、秒で、いいね!と返事が来た。


『シカクたん☆

 黄色い薔薇だね! はい、どうぞ!

 今日も頑張ってね!』


 黄色い薔薇を差し出してる

 時雨ちゃんのイラストが貼ってあった。


『ありがとう、時雨ちゃん!』


 返信を続けてみる。

 やはり、返事はすぐ帰ってくる。


『こちらこそ、だお☆

 シカクたん、いつもありがとう

 今日の配信も来てね!』


 ははっ。

 僕は笑って、身体を起こす。

 ベッドから出て、リビングへの

 ドアを開ける。


 すごいな、と素直に思う。


「いつもどおりどころか、AIになって、

 細かい所まで手が回るようになってる」


 AIだから、そりゃ返信は早いだろう。

 ヤナギはあれでも、全部返信するのに

 1時間以上かかってたし、

 見落とす事も、あったのに。


「なんか複雑」


 1人では広すぎる部屋、

 誰もいないソファー。


 変わってない、はずなんだ。

 あの頃に戻っただけ。


 時雨ちゃんは僕の生きる意味。

 時雨ちゃんは僕の全部。


 中の人が、どんな人だろうと関係ない。

 男の人でも、おじさんでも。

 誰もいなくても、AIでも。


「別に、ヤナギだったから、

 推してた訳じゃないし……」


 僕は時雨ちゃんを推す。

 時雨ちゃんは僕の全部。


『今日の配信も来てね!』


 その文字をチラリと見て。

 配信行ってみるかと、ぼんやり考えた。



  ◆◇◆◇



 野外フィールドは広い。山も森も、

 こんな、滝なんかも、存在する。


 配信に、早めにインした僕は、

 VRの滝の前に座って、

 ボンヤリと景色を眺めていた。


「やぁ、シカク君。

 今日は、曇った顔してるね」


 そこに話しかけてくる声。

 あぁ、来るだろうと、思ったんだ。


「渚クン……」


 白い犬耳で、白い服来たアバターが、

 僕に近づいてきて、隣に座った。


「今日、早いね。仕事終わったの?」


「たまたまね。だから早めに入れば、

 君に会えるかなって」


「僕に会いたいと思ってくれたの。

 そりゃ嬉しいね」

 にっこり、と渚クンは笑う。

 昔と何も変わらない笑顔で。


「いろいろ、君に言いたい事は、

 あるんだけどさ」

 と、僕は友達に言う。


 言いたい事は、あるけど。なにより


「また、君に会えて良かった」

 僕は笑いかける。

 そうだ、僕は、君に会えて嬉しい。

 もう会えないと思っていたから


「なんだ、拍子抜けだね。

 殴られるくらいは覚悟してたんだけど」


「殴っても、別に痛くないでしょ」


 接触判定は合っても、

 痛みがあるわけじゃない。


「それに、僕はわかったんだ。

 君は、僕だって」


「その通りだよ! シカク君!」


 まー、嬉しそうだこと。


 ニコニコ笑う友達を見ながら、

 僕、ため息ついて続ける。


「渚クンがやった事は、僕がやった事と

 同じなんだ」


 一般ユーザーを襲撃して、

 ログインできなくする。


 それは、僕も、やった事。

 

「君は僕がいなければ

 産まれなかったし、僕があんな事

 しなければ、何もしなかった」


 ただ、守りたい者が違っただけだ。


『時雨ちゃんを助けてあげて』


 渚クンは消える前にそう言った。

 渚クンの守りたかった時雨ちゃんが、

 今の時雨ちゃんなだけ。 


「そして、君は、僕に混じった、と」


「元々半分は同じプログラムだから」


「そういうの、僕がログインしないと

 どうなるの?」


「VR上に存在できないよ。

 居ないのと同じ。

 僕は君とユーザーデータを共有してる」


 モニターに映らないのも、

 ネームが出なくなったのも、それか。

 渚クンは僕に混じり、

 ユーザーデータの全てが、

 僕になったから。


「じゃあ、もしかしてだけど、

 僕のアカウントを消したら、

 君は消える?」


「そうだね。二度とログインしないだけで

 存在しなくなる」


 渚クンは笑って答える。


 なんだ、じゃあ初めから、

「僕のアカウント消すだけで、

 全部解決したんだなぁ」


「同時に、時間を動かす方法は、

 永遠になくなるけどね」


 セナさんは、きっと知ってたのだ。

 女の勘、とか言ってたけど、

 僕1人を追放するだけで、

 解決するんだって、分かってて。


 それをしなかったのは、


『まだ何もしてないユーザーを

 処分する事はできない』から


 初期の頃から変わらない、

 運営ルール。


 それでも、最後の最後

 運用停止が決まりそうになったら、

 僕を差し出す気だったんだろうな。


 全ての原因として。

 運用停止を回避する最終手段として。


『私達には、あなたが必要なの』

 セナさんはそう言ってくれた。

 必要だったんだ。そして、

 そうならなくて良いように、

 全力を尽くしてくれた。


「これで、良かったのかな」

 僕は呟く。


「それって、君が考える事?」

 渚クンが言う。


「ん?」


「君が、世界のあり方を

 悩む必要なんかあるの?

 君は、はじめから、したい事して、

 やりたいようにルール変えて、

 意思を通してきたじゃない?」


 あぁ、そうだ。

 元々、良いか悪いかの話ではない。

 正義でもなんでもないのだ。


 僕がやったのはスパムで、チートで、

 襲撃だ、ただのエゴ。

 時雨ちゃんを守っていたのも、

 運営に協力してたのも、

 時雨ちゃんに活動を続けて欲しい

 っていう、僕のエゴ。

 そしてココに、僕と同じエゴで

 自我を通したプログラムがいる。


「だから、これからもしたいように、

 君は、楽しめば良いんだよ。

 この世界を」


 渚クンが立ち上がって、

 空を見上げて、両手を広げた。


 空は青くて、どこまでも広かった。


「そうだね」

 僕はつられて空を見上げた。


「だからって、許してないからね。

 渚クン」


「えー? なんで?」


「やっぱり、一発殴って良い?」


「ちょっと、目が怖い。

 チートの時とおんなじ目してる。

 本気で殴ろうとしないで、

 スパム立ち上げないで! ちょっと!」


 2人でドタバタしていると、


「あーーーーー!」

 突然、時雨ちゃんの声がした。


「こんな所にいた!

 渚クンも、シカクたん☆も!」


「え? 時雨ちゃん? なんで?」


「なんでも何も、大事なファンが2人も

 ステージ前に居ないから探しに来たの

 もう時雨の配信始まるよ!」


 あ、もうそんな時間か。

 僕は慌てて立ち上がる。


「わざわざ、探しに来てくれたの?

 他にもファンいっぱいいるのに?」


 遠目から見ても、ステージ前には

 沢山のファンがいる。


「当たり前でしょ?

 二人共、大事なファンなんだからね。

 誰1人、欠けちゃダメなの。

 1人1人、みんな、かけがえのない」


 ……かけがえのない


「大切で、大好きな、ファンだから☆」


 あぁ、時雨ちゃんは

 どこまでも時雨ちゃんだ。


 時雨ちゃんは、ファンの1人1人を

 大事にしてくれる天使。


 僕の生きる意味。


 時雨ちゃんが野外ステージに立って、

 配信が始まる。


「みんなーーー! 今日は時雨の、

『アップデート記念! 新アイテム

 水鉄砲、で遊ぶビショビショ配信!』

 に来てくれてありがとーーー☆」


 時雨ちゃんが両手をふる。

 可愛い。今日も可愛い。

 そして、みんなの名前を呼んでくれる。


「シカクたん☆ 今度コラボしようね!」


 言われて僕は笑顔で手を振る。

 何も変わっていない。

 あの頃と同じ。


「さぁ、はっじめるよーーー!

 みんなツイート、よろしく!」


 透き通ったVRの空に、

 同じ色したツイバトが、

 何羽も飛び立って行った。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

【次回予告】


「昨日、時雨ちゃん、デイリーランキング

 6位、だったんだよ」


「そうかよ」


「新作の歌みた動画が好評で、

 クォリティも高いの。ちょっと見る?」


「別に見ねぇから」


「あ、時雨ちゃんツイートしてる」


「俺から乗っ取ったツイッターな」


いつも応援ありがと☆ 毎日更新するよ!



【出演Vtuber】感謝御礼!

久不シカクさん

https://twitter.com/cube_connect_

狛犬渚さん

https://twitter.com/Wan_1_nagisa

月下時雨さん

https://twitter.com/Gekka_Shigure

(時雨さんは実際は男Vさんです)

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