表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/60

第43話、AIプログラム


挿絵(By みてみん)


「みんな! 今日は時雨の歌みたライブに

 来てくれて、ありがとー!」


 ステージの上で時雨ちゃんが手をふる。


「時雨の笑顔は、神秘のパワー!

 今日もヒーリングしちゃうぞ☆」


 おきまりの台詞を言って、

 ウインク決める。

 VRの参加しているリスナーから、

 コメントとハートアイコンが飛ぶ。


 完璧、だ。

 完璧に、時雨ちゃんである。

 いつもの白い衣装。

 青いツインテール。

 笑顔も歌声も、全部時雨ちゃん。


 僕らはそれを、モニター越しに、

 配信画面に見ていた。


「完璧ね」


 隣で、セナさんが、同じ感想を言った。

 画面に映るVtuverは、

 たしかに時雨ちゃんなのだ。


「むしろ今までほんとに、

 ヤナギがやってたのか、疑うレベル」

 

「おいこら、どういうことだ」

 後ろでヤナギが僕に言った。


 あの時、タイムゲートサーバーで、

 時雨ちゃんは

 ダイブゲートに飲み込まれ、

 ヤナギとの接続が切れた。


 だが時雨ちゃんは、動き続けた。

 ヤナギが動かさなくても、

 アバターが勝手に動いたのだ。


「じゃあ、確かに、時雨ちゃんは

 返してもらったからね」


 渚クンのその言葉を最後に、

 僕はタイムゲートサーバーから、

 追い出された。


 そして、それからずっと、

 ヤナギはログイン出来てない。


 〜 既に使用されてます 〜


 というエラー文がでる。


 時雨ちゃんは、今までどおり、

 ライブをして、雑談して、おはツイして

 Vtuber活動を続けている。


「どういう、事なんですか?」


 僕はセナさんに聞く。

 ヤナギ無しで、時雨ちゃんが動いてる。

 意味が分からない。


 うーん、と、セナさんは呟いてから、


「月下時雨は、元々AIアイドルとして、

 売り出すつもりでデザインされたのよ」


 と、思い出すように、言った。


「その時は『月本雫』って名前だったの。

 でも、途中で計画が頓挫して」


 頓挫したんだ。そういうの多いな。

 たしか、偵察バトも計画頓挫だったけ。


「だから、その時たまたま入社してきた

 新入社員つかまえて、

 Vtuberやらせてみた、って訳」


 それが、ヤナギ。


「ほんと、酷い話でしたよ」

 と、ヤナギが顔をしかめて吐き捨てる。


 入社3日目で、仕事はVtuber活動だ、

 と言われれば、確かに酷い話だろう。


「ちょっとおもしろい名前だったのよ。

 『柳下時雨』」


「人の本名、

 面白いとか言わないで下さい」


「だから、名前に月だけ足して」


 月下時雨、としてデビューした。


「AIプログラムが残ってた、て事ですか?

 渚クンが『乗っ取り』って言ってたの

 それですか」


「VR側から見たら、乗っ取りね」

 と、セナさんが言って、


「まったく、酷い話だ」

 と、ヤナギがため息付きながら言った。


「でも、悪い話じゃない」

 と、セナさんは続ける。


「今の所、月下時雨は真面目に、

 Vtuber活動をしているし、

 ファンもユーザーも増えてる」


 そう、時雨ちゃんは、プログラムでも

 時雨ちゃん。人気はそのままだ。


 ファンからしたら、時雨ちゃんの

 中身が何でも関係ない。

 おじさんだろうと、AIだろうと。


「社員を使って活動するより、ずっと

 コスパが良い」


 今まで、ヤナギが仕事として活動して

 それに給料を払ってきたから。

 会社としては、勝手にやってくれるなら

 それにこした事はない。

 本来、そのための、

 AIプログラムだった訳で。


「それに、襲撃も起こらなくなったし」


 渚クンの目的は、

 初めから時雨ちゃんだったから。

 時雨ちゃんが手に入れば、

 ユーザーを襲う事もない。


 Vライフの時間は、

 相変わらず止まったままだが──


「当面、緊急性は無くなったわ」


 すぐに運用停止になる、

 なんて事態では無くなった。


 良かった、良かった。


 ……本当に、そうか?


「でも、ヤナギは?」

 僕の疑問に、


「ん?」

 と、ヤナギが顔を上げる。


「ヤナギは、それで良いの?」


「なにがだよ」


「だって、時雨ちゃん

 ずっとやってきたのは、ヤナギなのに」


 急に中の人はいらないとなって、

 それで良いのか。


「まぁ……」

 と、ヤナギは睨むように、

 モニターの月下時雨をみる。


「頭に来ない訳じゃねぇが、」

 と、いつもの愛想の無い声で、

「元々『月下時雨』はユーザーが増えて

 ゲームが軌道に乗るまで、って

 事だったし」


 確かに、

 『人気が出て、やめられなくなった』

 と、前に言っていた。


「ファンが悲しむ訳でも無いし……」

 と、ヤナギが画面を見ながら呟く。


 その声に感情が無くて、

 何を考えてるのか、わからない。


 Vtuber活動は、大変だ。

 毎朝、100件を超える返信には、

 1時間以上かかる。

 定期的な配信もあるし、動画編集作業、

 画像編集作業に、宣伝活動もある。


 日常生活の時間が、これでもか、と

 無くなっていく。

 その上、リスクもある。


 それでも辞められないのは、

 悲しむファンがいるから。


 時雨ちゃんが生活の全部、

 時雨ちゃんの為に生きてる。


 そんなファンは、少なからず居る。


 ──僕みたいな。


「まぁ、ヤナギがそれで良いなら……」


 それは僕が決める事じゃない。


 歯切れの悪い、僕らのやり取りを、

 ふむ、とセナさんが一息つく。


「まぁ、どちらしろ。現状では、

 なんの対策もできないわ。

 時間は止まったままだけど」


 あぁ、そう言えば、


「セナさんが、僕なら時を動かせるって、

 知ってたのってなんでですか?」


「んー、女の勘?」


「へ?」


「まぁ、それは冗談だけど、

 書き換えられたタイムサーバーの

 コードみてたら、なんか似てるなーって

 ブロックノイズスパムと」


 それはたぶん、渚クンのチートスキルが

 僕を元にしてたから。


「だからまぁ、時間を動かせるなら、

 ダイヤちゃんだけだろうなって、

 まぁ、ダイヤちゃんが止めたって

 線もあったんけど」


 もしかして、僕の家に

 ヤナギが住み込んだり、セナさんが

 ちょこちょこ顔だしたりしたのって、

 僕の行動監視も、あったんだろうか。


「とりあえず、今は様子見ね。

 また何かわかったら、連絡するから」


 セナさんが一度画面を見てから、

 立ち上がる。


「帰るわよ、ヤナギ君」

 当然のように、ヤナギに声をかえた。


 え? と、僕は声をあげる。

 ドクンと、心臓が震える。


「ヤナギ、帰るの?」

 立ち上がったヤナギにつられて、

 僕も立ち上がる。


「あぁ。俺、もう、活動できねぇし、

 お前の家に置いてもらう理由もないし」


 それに、とヤナギは無表情のまま

 続ける。


「月下時雨としての活動がないなら、

 俺は、会社で他の仕事あるから」


 淡々と話すその様子に、胸が苦しくなる

 もう、会えないんじゃないかと、

 そんな不安が押し寄せる。


 セナさんが、僕の顔をチラと見てから、

 ヤナギの肩をポンと叩いて

「先に外に出てるから。

 話終わってから来て」

 と、ヤナギに言って出ていった。


 ヤナギが僕の方をみる。

 相変わらず、無愛想で、無表情で、

 何考えてるか、わからならない。


 僕が聞きたい事は1つだ。

「もう、会えない?」


 このまま丸く収まったら、どうなる?

 僕が協力する必要がなくなって、

 繋がりが切れて、そしたら……


 泣きそうな僕を見て、

 ヤナギは1つ息を吐いて。


「別に、いつでも連絡しろ」

 と、その愛想の無い声で言った。


「え? いいの?」


「まぁ、良いよ。待ってる」


「ほんと?」


「あぁ。だから、泣くな」


 なんで涙が溢れてるのか、

 よくわからない。

 ヤナギと会ってから、そういうの

 すごく多い。

 ヤナギの手が、僕の頭に触れる。


 あぁ、また頭を撫でてくれると、

 そう思った時、

 グイと引き寄せられて、

 僕はヤナギの胸の中に居た。


 抱きしめられてるんだと、

 気がつくのに、数秒かかった。


「まぁ、また会えるだろ。

 だから、泣くな」


 耳元で聞こえる声に、うん、と返す。


「ありがと……ヤナギ」

 それだけ答えると、

 ヤナギはふっと笑って。


「今更?」

 と軽く言って、

 僕をまた抱きしめた。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

【次回予告】


「やぁ、シカク君。

 今日は、曇った顔してるね」


「渚クン……」


「僕に会いたいと思ってくれたの。

 そりゃ嬉しいね」


「また、君に会えて良かった」


いつも応援ありがと☆ 毎日更新するよ!

 最新話まで読了ありがとうございます。

 よろしければ、

 下の☆☆☆☆☆で評価を下さると

 モチベにつながります。

 これからもよろしくお願いします。


【出演Vtuber】感謝御礼!

久不シカクさん

https://twitter.com/cube_connect_

狛犬渚さん

https://twitter.com/Wan_1_nagisa

月下時雨さん

https://twitter.com/Gekka_Shigure

(時雨さんは実際は男Vさんです)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ