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第38話、乗っ取りデバック

挿絵(By みてみん)


 Vライフへ、ようこそ!

 夢と希望のVR世界をお楽しみください。


 いつものプラットフォーム。

 Vライフの1番最初の画面。


 でも、今日はディスプレイで見ている。

 いつも僕が操作するアバターを

 兄貴がVRしてるから。


「兄貴、やめてって」


 僕は後ろ手に手錠拘束されて、

 床に座り込んだまま、ベッドの足と

 繋がれて動けない。


 いや、ほんと、どうしてこうなった!


「お願い、お兄ちゃん、これ外して!」


「外したら、邪魔するだろー、

 俺がバグ処理するの」


「当たり前じゃん、勝手な事しないで」


「なんでだ。バグが直ったら、

 ユーザーも喜ぶ。会社も喜ぶ」


 そうだけど……それはそうだけど……


「全部直ったら、

 あの男が来なくなるからか?」


 兄の言葉にビクと身体が震える。

 全部、直ったら?

 ヤナギがうちに来る必要は無くなる。


「そんなんだから、バグは直らないんだ

 お兄ちゃんが全部直してやるからなー」


 やめて、違う。

 直したくないワケじゃない、

 直さなかったワケでもない。


「おっ、開発権限が与えられてる。

 これは触り放題だ」


 兄貴がシステムを操作して、

 ダイブゲートを開く。

 そこに飛び込んで、空間が読み込まれる


「開発空間?」


 僕は画面を見て呟く。真っ白の空間。

 一度行った事がある開発用サーバー。


「ここからだと内部データも触れるんだ

 知らなかったろ」


 知らなかった。開発権限も、

 多分、セナさんが付与してくれた。


「さぁ、どこがおかしいのか見てみよう」


 アバターの周りに、ウィンドウが開く。

 ソースコードが読み込まれてく。


「ん? なんか混じってる」


 兄貴が自分のデータを見て呟く。

 

 僕のプログラムに混じってる?

 それは……まさか!


 アバターから空色のハトが飛び出した。


「テト!」


 偵察バトは、バサバサと飛び回って、

 ギャシャー、と兄貴が操作する

 アバターを威嚇してる。


「おぉ、すごいな。消し忘れバグだ。

 プログラムが古い」


 ははっ、と兄は笑う。


「兄貴、それは違う! バグじゃない」


 僕の声を無視して、兄は手を伸ばす。

 青いハトを、鷲掴みにする。


「ギャ!」


 ハトが声を上げた。


「兄ちゃんが消してやろうなー

 あるべき姿にお帰り」


 接触判定でのコード変換。

 兄貴片手で掴んだまま、

 もう片方の手で架空キーボードを打つ。

 ハトから、バキバキとエフェクトと

 コードが溢れていく。


「やめて! 兄貴やめて!

 それは、バグじゃない!

 友達なの! 大事なの!」


 一緒に居てくれた、大事にしてた

 プログラム。

 やめて、消さないで、それは、


 僕の友達!


「友達? バグ飼うバカがどこにいる

 プログラムに感情移入するな。

 そんなんだから、直らないんだ」


 青いハトは悲鳴を上げて変形していく。

 兄貴の手の中で小さくなってく。

 苦しんでるのが分かる。

 僕には感じる。


「やめて! お願い、兄貴やめて!」


「ダメだ、バグは全部消す。

 それが、常識だろ?」


 テトの悲鳴が聞こえる。

 胸が締め付けられ、勝手に涙が溢れた。


 やめて、やめて、やめて、やめて、やめ


「いやあああああああ!」


 叫ぶ僕の目の前で、

 ブツンとハトは消えた。


 兄貴が開く手のひらに、

 もう何も残っていなかった。


「あ……」


 頭が真っ白になって、

 全ての感情が固まった。


 動くのをやめた表情から、

 涙だけが落ちて、膝に落ちた。


 僕は、縛られた状態で、うつむく事も

 涙を拭くことも許されず、

 感情を失ったまま、ディスプレイを

 眺めていた。


 兄が笑っていた。


 画面の中で、見慣れたアバターが、

 同じ様に笑っていた。

 カタカタとキーボードを操作しながら。


「おや、まだ、なんか混じってるね」


 ユーザーデータを見ながら、

 兄が言う。


「なんでもかんでも飼うのは、

 良くないよな!」


 兄がキーボードを叩くと、

 アバターから、ニュルンと、

 白い物が分離した。


 それは、白い四足動物のようで、


「キツネ?」


 ん? 僕の心が少しだけ反応した。


 白いキツネはすぐに大きくなって、

 和服姿で白いキツネ面をかぶった

 人型に変化した。


「ずいぶんと、でかいバグだな」


 兄が笑う。


 キツネは首を傾げて、

 僕のアバターを見ながら


「キミハ、ダレ?」


 と呟いた。


 ん? 兄貴も首をかしげる。


「僕は、僕だよ『久不シカク』」

 兄が答える。


 でも、キツネはカチンと首を曲げた。

 それが、怒っているのだと、

 面の上からでも分かった。

 

「乗っ取り、ハ、許サナイ」


 キツネは、ハッキリ言った。

 VR上は、動かしてるのが、

 僕だろうと兄だろうと、

 変わらないはずなのに。


「シカク君ヲ、返してもらう」


 電子音だったその声が、

 少しずつ声になって行った。


 シカク君?


 その言い様が頭の隅に引っかかった。


「なるほど、お前がスパムの親玉か」


 兄は笑って、

 紫のライトセーバーを出現させた。


「俺が、処理してやろう」

 そう言って、光る剣をキツネに向けた。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

【次回予告】


「ははっ、兄ちゃんはすごいんだぞ」


「ほら、掴まえた」

 

「さぁ、お前も消そう」


いつも応援ありがと☆ 毎日更新するよ!



【出演Vtuber】感謝御礼!

久不シカクさん

https://twitter.com/cube_connect_

月下時雨さん

https://twitter.com/Gekka_Shigure

(時雨さんは実際は男Vさんです)

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