第34話、唐突に来訪者
「あー……唐突に死にたい」
朝、ソファーでスマホいじってた僕が
突然言ったもんだから、
「おい、どうした?」
隣でノートパソコン開いてたヤナギが
驚いて顔をあげた。
「あー、どうしよ、僕……」
「なんだよ」
「相互フォローしてたVさんに
『はじめまして』って送っちゃったぁ!」
盛大に涙声で言ったもんだから、
「……は?」
ヤナギは一瞬止まった。
「だから、『はじめまして』って
送ったの。はじめましてじゃないのに
仲良くしてもらってたのにー」
「ふっ……ははっ、あははははははっ」
ヤナギは遅れて、それはもう大きく
笑いだしたのだ、失礼な事に!
「ちょ! なんで笑うの!」
「あー、いや、そうか、はははっ」
「笑わないでよ、笑いごとじゃないの、
こっちはー」
「ははっ、そうか、いいだろ。
別に相手も気にしてないだろ」
「そういう問題じゃないの!
新人活動者として、あるまじき!
やってはならない失態!」
「よくあるから、そういうの。
フォロワーも増えてきただろうし」
Vtuberデビューして、一週間すぎた。
僕のアカウントは
フォワーが500人を超えた。
でもこれは序の口。
『1000人超えてからが本番だからね』
セナさんがそう言っていた。
同じVtuberのフォローを増やす。
ファンも必ずフォローする。
でも急激に増えたフォロワー数に
感覚が追いつかないのだ。
必然、フォローしてもらってるのに
はじめましてする、なんて事が起きる。
「まぁ、じきに慣れる」
「ほんとにー?
フォロワー覚えられる?」
「全員覚える必要は無いだろ」
「でも、時雨ちゃんは覚えてるじゃん」
そうだ、時雨ちゃんはファン全員の
愛称を覚えて、フルアカウントまで
全部記憶してる。
僕だってそうしたいのに。
全然、追いつかない。
「俺だって、全員じゃないし、
俺と同じ事する必要はねぇんだって」
「そうなの?」
「俺には俺の特性があるし、
お前にはお前の魅力があるんだよ。
お前はそのままで良いし、
そういう所が、良いんだよ」
そういう所って──
「でも、カンペキにしたいじゃん」
「初配信でマイク入れ忘れて、
続く多人数コラボで自分の配信設定
分からず始められなくて、
みんなのゲーム開始を遅らせた上、
他人の配信に、見切れた過去を持つ
そんなお前にカンペキを求めるファンが
いると思うのか」
「ちょ、それひどい」
「はじめまして、しちゃったVにも
コラボ申し込んだらどうだ?」
「いやいやいや、無理だから!」
「案外OKしてくれるかもよ。
そろそろコラボ予定立てないと、
ただでさえお前、
コラボ配信しかしないのに」
「1人配信怖いじゃん。同接0の恐怖!
ゲーム動画撮るのほうが良い」
「まぁ、好きにしろ。
その辺は好きな配信だけすれば良い」
セナさんも、配信頻度や内容は
好きにすれば良いと言ってくれる。
『楽しく配信するのが1番大事なの』
そう言ってくれる。
「あ、でも、お前、
今日おはツイしてなくね?」
配信には何も言わないセナだが、
ツイッターには厳しい。
『おはようツイートと、
おやすみツイートは、なるだけする事。
そういうので、ファンは
Vを人だと認識していくの』
そう、言われてるんだけど……
「おはV画像が……完成しなくて」
「無くてもいいだろ」
「いやだー、貼りたいー!
カッコいいコライラスト。
ヤナギ、僕のも一緒に作ってよ」
「自分で作んなきゃ意味ないんだよ。
時雨のおはV画像、業者が作ってたら
どう思うよ」
う……それは嫌だ。
時雨ちゃんが作ってると思うから良い。
「だろ? Vってのは
イラストやキャラじゃない
中身が人間である事が大事なんだ」
なるほど。
そういうもんなのか。
「だから、クソコラでも、画像無しでも、
お前がツイートする事が大事なんだ」
「分かった。おはツイ、するー」
頷いて、スマホを操作する僕を見て、
ヤナギは、自分の作業に戻った。
インターホンが鳴る。
「ん?」
「あれ?」
セナさんにしては、早い。
「宅配か? 集金か?」
「ヤナギ出てよー、
今、おはツイしてるからー」
「へいへい」
ヤナギは立ち上がって、
玄関に向かう。
「はーい」
ガチャリと、ドアを開けると、
そこに立ってる男。
スーツで背が高い、黒髪の。
男は、ヤナギを見て、
なぜか驚いた顔をして
「え? 君は、誰かな?」
と、聞いてきた。
「は? いや、ひとんちにピンポンして、
誰だ? は、おかしくね?」
反射的にヤナギは返す。
「ほーぅ、君は、ここに住んでるの」
「あぁ、まぁ、一応」
そう答えると、
男はヘラと変な笑い方をした。
「ヤナギー、誰だったのー」
なんか、騒がしくて、僕は玄関を覗く。
廊下から、外に立つ人影を見る。
そして、叫んだ。
「あ! 兄貴!」
僕の声を聞いて、ヤナギが振り返る。
「は? 兄貴? ……って、事は、」
もう一度、男の方を見て
顔を引きつらせる。
「不破、大地……」
男はその様子をみて、
「俺の事は知ってるんだな。
じゃあ──」
と、笑って
「──とりま、一発殴らせろ」
「いや、誤解だか──」
「兄貴やめてーーー!」
玄関に、鈍い打撃音が響いた。
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【次回予告】
「で、君は誰なわけ」
「ユーザーサポート、です」
「は?」
「ゲームの、ユーザーサポート……」
「ほぅ! やっぱ殴らせろ!」
「やめてって兄貴!」
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久不シカクさん
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月下時雨さん
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(時雨さんは実際は男Vさんです)