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第3話、ツンデレとピンクドット

挿絵(By みてみん)

 真っ白のVR空間が読み込まれていく。

 周りに何もない、真っ白だ。

 時雨ちゃん、以外は。

 仁王立ちで、僕を見下ろして怖い顔。


「時雨ちゃん、ここって……なに?」


「開発モード。通常、ユーザーが入らない

 開発用のサーバー」


 怖い声で、時雨ちゃんが言う。

 あぁ、そんな声、初めて聞くー。

 なんか、新鮮。


「時雨ちゃん、スパムに感染したよね」


 僕に抱きついたから。

 時雨ちゃんの右肩に、ノイズが見える。

 感染したら、回線接続が切れるはず。


「開発モードだと全てのプログラムが、

 手動でしか、動かない。

 自動的に進まないの。

 だから、感染が進行しない」


 IDが書き換えられる前に飛んだから。

 切断プログラムが実行されないから。


「って、そんな事は、どうでも良いの!」

 時雨ちゃんがいきなり叫んで、


「うわっ!」

 僕は後ろに倒れる。


 時雨ちゃんは容赦ない。

「あんた何したか、わかってる?」


「な、なんの事でしょうか……」

 時雨ちゃんはすっごく怖いけど、

 とりま一度は、しら切るじゃあん。


 ごまかしたい僕を見下ろして、

「は? あんた、気づいてないの? 顔」

 と、呆れた声で言う。


「顔? え? 顔?」


 時雨ちゃんがウィンドウを立ち上げる。


 なにか設定を操作して。

 真横に、反転した僕の姿が現れる。

 アバター着せ替えの時の、反転表示。

 自分の姿が鏡みたいに表示される。


「よく見て。自分の顔」


 目の前に、座り込んだ僕のアバター。

 灰色の服で、灰色の髪の、男アバター。

 その顔、左頬に、ピンクとマゼンダの

 ダイヤが2つ、縦に並んでいた。


「あ……」


 思わず頬に触れる。

 鏡の中のアバターが同じ格好をする。


「ブロックノイズスパム襲撃の犯人の

 共通点──」


 頬の正方形のフェイスペイント。

 頂点を上にした、マゼンダとピンクの

 2つのダイヤ。


「だから、あんたをこう呼んだ。

 ──ピンクドット」


 僕は頬を押さえたまま、顔をしかめる。

 鏡の中の僕が、苦しそうな顔をする。


「この情報は運営しか知らないし、

 偶然とか言わないよね?」


 まぁ、しらを切るは苦しいよね。

 僕は、覚悟を決めて、息を吐き出す。

 リアルの息がゴーグル内を曇らせる。


「なんでか、消えないんだよね」


 頬の2つのシカクを撫でながら、

 ゆっくりと立ち上がって。


「ブロックノイズスパムを使うと、

 絶対、顔にマーク出ちゃうの」

 どうしても消せなかった、プログラムの

 欠陥。


 そういえば、今日襲ってきた奴も、

 同じマークがあったな。


「なんでユーザーの襲撃なんかしたの」


「んー? たまたま聞いちゃったの。

 Vライバーにチートかけて、

 アカウント乗っ取る、計画。

 時雨ちゃんも標的に入ってて」


 聞いたのは偶然だった。

 アカウント乗っ取って、規約違反して、

 強制BANさせて──そんな計画。


「絶対に、許せなかったから」


 だからスパムを作って、襲った。

 二度と、ログインできなくなるように。


「通報すれば良かっただけでしょ」


「したよ。運営にちゃんと伝えたよ。

 なんて返事来たと思う?」


 時雨ちゃんは少し考えて、

 正確に正解を答える。


「『まだ何もしてないユーザーを

 規制する事は出来ない』」


 その通りだ。なにもしてくれなかった。

 だから、僕が襲った。

 他に、方法が無かった。

 時雨ちゃん無しで、生きていけない。


「それ、犯罪だからね」


「知ってるよ。間違ってるって」


 それでも、守りたかったのだ。

 どんな手を使ってでも。


「時雨ちゃんは、僕の全部なんだ」


 はっきりと言い切ると、

 時雨ちゃんはギリと歯を食いしばって、

 まったく……と呟いてから、

 困ったように、ため息をついた。


「それで、今日襲ってきたのは、何?」


 今日? 襲ってきた黒い人型?


「さぁ、僕も知らないよ」


「はぁ? なにしらばっくれてんの?」


「本当だよ。僕だったら、時雨ちゃんを

 襲わない。それに……」

 僕は渚クンの笑顔を思い出す。


「友達を、襲ったりしない」


 別に死んだ訳じゃない。

 でも、ログイン出来なきゃ会えない。

 僕らはVライフ以外の繋がりを、

 一切持ってない。


「じゃあ、あんた捕まえて終わり。

 じゃないの? マジで? 

 うわっ、ほんと勘弁して……」

 そう、吐き捨てる、時雨ちゃん。


「口悪い時雨ちゃんって新鮮でいいなぁ」


「あんた、バカぁ?」


「ねぇ、ちょっと、もっと罵ってみて」


「うわぁ、気持ち悪いぞ☆」

 

 あ、刺さる。グザグサくるぅー。

 良い。こういう時雨ちゃん。


「呑気な事言ってんじゃない!

 あんたのセイで大変な事なってんの!

 私達がどんだけ苦労してるか……」


「時雨ちゃん、『私達』ってさっきから

 言ってるけど……」


 なんで、開発ページとか飛べるの?

 なんで運営しか知らない情報

 知ってるの?


「そりゃ、私はVライフ運営だからよ」


 え? ん? なに? なになに?


「運営?」


「そう。アプリ制作会社の正社員で

 ここを管理運営してるひとり」


 え? マジで?


「なんで運営がVライバーやってるの?」


「登録者が少ない初期に、登録者増やす為

 運営側がユーザーを演じるのは

 良くある事でしょ」


「サクラだよね。それサクラだよね!」


「人気出すぎて辞められなくなったのよ」


「公式が黙ってライバーやってるって、

 モラル崩壊でしょ、ランキング操作も

 検索結果順をいじれるし」


「スパム作った奴がモラルを語るな!

 ランキングに不正は無い。

 私のランクは純然なファンの──」


 時雨ちゃんは、一度言葉に詰まって、


「つまり……あんた達のおかげだから」

 と、真っ赤な顔を反らした。


 あぁ、これは、


「ツンデレ……尊い」


「あんた振り切って、むしろ清々しいわ」

 時雨ちゃんは、あーあ、と呟いてから。


「まぁ、対抗手段が見つかったから」

 と、僕の身体を上から下まで眺める。


「ん? え?」


「ブロックノイズスパムを使ってくる

 BOT、さっき見たでしょ?」


 あぁ、あの真っ黒い、人型。


「私達は『ジャックボット』と呼んでる。

 誰が操作してるかしらないけど、

 ほっとく訳にはいかない。

 このままじゃ、マズい。わかる?」


「運営なら、そうだよね」


 ユーザーが襲撃されて、

 ログイン出来なくなる事態は、

 顕著化すればアプリそのものの

 存続問題になる。


「だから、あんたも手伝って」


「ん? え? どゆこと?」


「それ、なら倒せるんでしょ?」

 僕の右手を指して言う。

 真紫のノイズ、ブロックノイズスパム。

 

「ちょっと、いいかげん、それ落として」


「あ、ごめん」


 僕は慌てて、立ち上げっぱなしだった、

 ブロックノイズスパムを停止させる。


 ジャックボットは、

 ブロックノイズスパムで消せる。

 プログラムが同じだから。


「近づくだけで回線切れるから、

 調査も排除も困難だったけど、

 あんたがいれば、排除も対処も出来る。

 だから協力して! このままだと、

 コンテンツ運用停止になるの!」


「それは、マズいね」

 Vライフが無いと、生きていけない。


「というか、あんたのせいで

 こうなってんだからね」


 その件は、マジすいません。


「責任とって、協力して! 私と、

 ユーザー襲撃する何者かを見つけて、

 このVライフを──このVR世界を

 救うのを、手伝って!」


 Vライフを──このVR世界を──


「言っとくけど、あんたに断る権利

 ないからね。断るなら、他ユーザーへの

 迷惑行為で処分が出るから」


「わかった。わかったわかった」


 つまり協力すれば、

 僕のユーザー襲撃の過去に目をつぶると

 そういう事。


 じゃあ僕に、断る理由は、ない。

 というか、Vライフがなくなるのは

 僕も困る。


「でも、時雨ちゃんって、

 スパムに感染してるんでしょ?」


 今は開発ページだから大丈夫だけど

 ここから出たら、IDが書き換わる。


「それに関しては、対策があるから」


 そうなの?


「とにかく、あとで運営から連絡する。

 今日はログアウトして」


 目の前に、勝手にボタンが出た。


「ねぇ、言っとくけど」

 と、僕に時雨ちゃんが言う。


「逃げたら承知しないからね!

 シカクたん」


 逃げる? なんで?

 僕は時雨ちゃんの顔を見ながら、

 ログアウトボタンに触れた。


「僕は、ずっと時雨ちゃん推しだよ。

 時雨ちゃんの為ならなんでもする」


 時雨ちゃんは、僕の生きる意味だ。


 にっこり笑った僕の視界が消えて、

 VR空間からログアウトした。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

【次回予告】


「不破大地さんのお宅はここ?」


「あ、そうですけど……誰ですか?」


「Vライフ、ユーザーサポート」


「は? 後で連絡するって……

 ちょくで来ると思わないじゃん!」


いつも応援ありがと☆ 毎日更新するよ!


【出演Vtuber】感謝御礼!

久不シカクさん

https://twitter.com/cube_connect_

狛犬渚さん

https://twitter.com/Wan_1_nagisa

月下時雨さん

https://twitter.com/Gekka_Shigure

(時雨さんは実際は男Vさんです)

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