第29話、コインチェック
ゲームは、五分五分で進んだ。
同じようなスターターデッキだ。
でも……相性は、僕の方が有利。
「お前、プレイングが全然違う」
ヤナギの声に余裕が無い。
「本気を出せ、そういったのはそっち」
「限度と程があるだろうが」
「僕が勝ったら、キスしてよね」
「だから、そういうのは、
もっと可愛く、顔を赤らめたりして
恋愛イベントみたく言ってくれ」
「僕は可愛く無いって?」
「そういう意味じゃねぇよ」
「可愛いの? 可愛くないの?」
「ぜ……脆弱性を見つけたら、
重点的に攻撃する、チート手口やめろ」
「質問に答えなよ」
「可愛いわ、バカ!」
叫びながら、ヤナギがカードを出した。
拮抗したまま、ゲームは進む。
2枚ずつサイドを取り合って、
お互いに、あと1枚。
さぁ、佳境だ。僕のターン。
「攻撃……するよ。コインチェック。
表なら攻撃が通って、僕の勝ち。
裏なら30ダメージ僕に来て僕が負ける」
「分かってる」
「どっちが出て欲しい?」
「おいこら、早く投げろ」
ふふっと僕は笑って、
親指にコインを乗せる。
さぁ、どっちが出るかにゃ?
コインは弾かれ、空中に飛ぶ。
机の上で音をたてて転がる。
2人が見つめる先で、
クルクル回るコインが、結果を出した。
「あ……」
僕は小さく声を出す。
コインは、真っ黒な『裏』を示した。
「あーーーー、また負けたーー!」
僕はいつもの口調で、
両手を上げて叫ぶ。
ヤナギが、大きく息を吐き出して、
「俺の、勝ちだな」
と、疲れた声で返す。
「なんで、勝てないのー!」
叫んでる僕を置いて、ヤナギは
「……すっごく疲れた」
と、ソファーにドスンと座った。
また、勝てなかった。
あとちょっとだったのに。
「僕、本気出したのになぁ……」
「本気とか、お前のはそういうのじゃ、
ないからな」
「ねぇ、もう一回やろうよー、
次は勝つからー」
「ちょっと疲れた。休ませろ」
「あ、次はデッキ編集しようよー。
パック買って剥こうー」
「お前、絶対、レアカード買ってきて、
入れるだろ」
「当然じゃん、そういうもんでしょ、
カードゲームって」
「お前のは、全部チートに見えるんだ。
あー、チーターとリアルで
ゲームするもんじゃないな」
「えー、面白くなってきたのに」
僕もソファーまで行って、隣に座る。
ヤナギが、はぁと息を吐き出して、
「大体、お前は、
目的と手段が逆転してんだよ。
目的の為に勝ちたいのに、
勝つ為に目的使ってどうすんだよ」
そんな事言うもんだから。
「別に、逆転してないもん」
僕は呟く。
ん? ヤナギがチラとこっちを見る。
隣で、その顔を僕も見る。
「は? お前……」
数秒、時間が止まった。
次の動きが入力されるより早く、
チャイムが鳴った。
「ダイヤちゃーん。鍵開いてるけど、
入って良い?」
セナさんの声、バタバタと足音がして
リビングのドアがあく。
「あれ? ヤナギ君、そんな部屋の端で
なにやってんの?」
「な、何もやってません。
まったく何も、何もしてませんでした」
「あ、ポケカしてたのねー。
ダイヤちゃん、楽しかった?」
「めっちゃ面白かったですー」
「どっちが勝ったの?」
「お、俺ですよ。俺の全勝です」
「え? ヤナギ君、どう見ても
ボロ負けした顔、してるけど」
「き、気のせいですからね」
まぁ、良いんだけど。
と、セナさんは荷物を降ろして。
「ところで、炎上を鎮火させる方法が
見つかったから、知らせに来たわ」
「本当ですか?!」
と、僕は聞く。
現状を、打破できる方法?
「そんなの、あったんですか?」
ヤナギも驚いて聞いてる。
「コンプライアンス部が、
徹夜で議論したのよ。
でも、これには、ダイヤちゃんの
協力がいるの」
協力? 協力もなにも、
僕の炎上をどうにかする方法な訳で。
「僕は、なんだってやります」
また、VRに、ツイッターに、
戻る事が出来るなら。
「それは良かった」
と、セナさんは笑う。
「でも、どんな方法なんですか?」
僕が聞くと、セナさんは笑って、
「ダイヤちゃん、あなた、
Vtuberデビューするの」
それは楽しそうに、言ったのだ。
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【次回予告】
「一週間後にはデビューだからね」
「へ? 一週間?」
「初配信は、なんとコラボよ」
「いや、初配信がコラボとか!
ムリゲーなんですけど!!」
いつも応援ありがと☆ 毎日更新するよ!
【出演Vtuber】感謝御礼!
久不シカクさん
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月下時雨さん
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(時雨さんは実際は男Vさんです)




