第28話、リアル覚醒
「そ、その箱はなに?」
「ポケカ」
「ポケカ? カードゲーム?」
「なんだ、お前、知らないのか?」
「名前くらいは知ってるよ。流行ってるし
でも、どんなのかは知らない、
やったこと無い」
「じゃあ、おしえてやる」
「僕に、出来る?」
「もちろん。誰でも出来るし、
すっごく楽しい。それが、ポケカだ」
ヤナギは、赤と緑と青の箱を、
机に並べた。
「コレは『スターターデッキ』
セナさんが買ってきてくれた」
初めて遊ぶ人用に、デッキのまま
売られている商品。
「3種類ある。俺もコレで戦うから、
お前、好きなの選んで良い」
好きなの?
炎デッキ、草デッキ、水デッキ。
「じゃあ、」
手を伸ばそうとして、気づいた。
「あ、これ、僕が選んだ後、ヤナギが
相性有利なデッキ選ぶんでしょ」
「……なんで分かった」
「あー、やっぱりー、
おかしいと思ったの、3つある時点で
先に選んで! ヤナギ」
「良いのか?
それだと好きなデッキ使えないぞ」
「それは、それでヤダ。どっちも選ぶ、
僕のもヤナギのも決める」
「はいはい、好きにしろ」
ヤナギは笑って、
僕が選んだ箱を開けた。
◇◆◇◆
嘘だ……おかしい。
相性はこっちの方が良いはずなのに。
「全ッ然、勝てないんだけどーーー!」
「お前、全部負けてるな」
「サイド、取れないんだけどーー!」
「ほんとに1枚も取れないヤツ
はじめて見た」
なんで、おかしい。
デッキは変わんないはずなのに!
「まだやるか?」
「やる」
「ん」
カードを集めて、
十個の山に配る、配置シャッフル。
「アナログゲームも、楽しいだろ」
シャッフルしながら、ヤナギが言う。
「うん……」
ヤナギが、何を言いたいのかは分かる。
事態は好転していない。
炎上は続いて、なんなら広がってる。
もしかしたら、僕は
もう二度とVライフにもツイッターにも
戻れないかもしれない。
「お前が、苦しむ必要も、義理も
そもそも無いんだからな」
別に死ぬ訳じゃない。
そう言ったのは誰だったかな。
そんな事考えながら、対戦してたから、
あ……
「また負けたーーーー!」
「お前、弱いな」
「なんで? なんで、勝てないの?」
似たようなスターターデッキで、
相性はこっちのは良いのに。
「お前は、本気で勝とうとしてないから
どんな手を使っても勝つ。
そう思えなきゃ、ポケカは勝てない」
「ちゃんと勝とうとしてるよ」
「だから、本気じゃないんだって。
本気になって見せろよ」
本気? そんな事、言ったって。
「じゃあ、次、俺に勝てたら、
お前の言うこと、聞いてやる」
ん? 言うこと?
「え? なんでも?」
「まぁ、大抵の事は」
「また時雨ちゃんで台詞読んで、とか」
「勝てたらな」
「VRで僕の為に歌、歌って、とか?」
「勝てるもんならな。勝ってみせろよ
どんな手を使っても」
ははっ、と笑って、ヤナギが言う。
絶対勝てないと思ってるな、コイツ
勝ちたい。絶対に。
どんな手を、使っても……
僕は、スウと息を吸い込む。
本気になってない、とヤナギは言った。
本気で、勝とうとすること。
じゃないと、ポケカは勝てない。
これは、プログラムと一緒。
考える。組み替える。書き換える。
どんな手を使っても勝つ。絶対に!
頭がジンと痺れて行く。
カシンと思考が組み代わった。
そうだ、僕なら出来る。
絶対に、勝つ。
クリアになった視界の中で、
僕は、顔をあげた。
「じゃあ、ヤナギ、僕が勝ったら」
「んー?」
「僕にキスして」
「ん? は? ……え?」
バラとヤナギの手からカードが落ちた。
「お前、今、なんて言った?」
「僕に、キスしてよ。僕が勝ったら」
もう一度言う。淀み無く、はっきり。
「いやいや、お前なに言ってる?」
「なんでも、聞いてくれるんでしょ?」
「お前、そういうのは、
好きなヤツに言うもんだ」
「へぇ、僕は違うの?」
「は?」
顔をあげたヤナギの、動揺する顔。
僕は真っ直ぐそれを見る。
頭が痺れて、なにも感じない。
「お、お前……目がすわってる。
なんて、顔、してんだよ」
「どんな顔?」
「VRと同じだ……『シカク』
覚醒した時の──チートする時の
お前と同じ。ダブって、見える」
「なに言ってんの? 初めから、
僕は、僕だよ」
『シカク』は、僕だろ。
あぁ、とヤナギは顔を引きつらせて、
気がついたように呟いた。
「これは……チート、なんだな。
お前、俺が、わざと負けると……思って」
「負けてくれるの? へぇ」
「やり方が卑怯だ」
「どんな手を使っても勝ってみせろ、
言ったのは、そっちだよね」
「だからって、お前、ほんとに俺が、
わざと負けたらどうする気だよ」
「やるの? やらないの?」
「やるよ。やるし、俺は負けねぇ」
「じゃあ、勝って見せてよ、ね」
カードを持ちながら、細めた目で笑う。
さぁ、ゲームを始めよう。
ヤナギが歯を食いしばって、呟く。
「クッ……こいつ、チートがすぎる」
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【次回予告】
「僕は可愛く無いって?」
「そういう意味じゃねぇよ」
「可愛いの? 可愛くないの?」
「ぜ……脆弱性を見つけたら、
重点的に攻撃する、チート手口やめろ」
「質問に答えなよ」
「可愛いわ、バカ!」
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久不シカクさん
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月下時雨さん
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(時雨さんは実際は男Vさんです)