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第25話、炎上

挿絵(By みてみん)


 Vライフをログアウトして、

 自分の部屋からリビングに戻ると、

 セナさんとヤナギが、怖い顔して

 話してる。


「何かあったの?」


「いや……その」


 なんか教えてくれない。

 なんだろ、炎上って言ってたけど。


 とりあえずソファーに座って、

 スマホを手に取ると、


「へ?」


 ビックリした、

 通知が30件を超えていた。


「あ、お前、スマホ見るのやめろ」

 ヤナギが何故か止める。


「え、なんでさ。通知きてるのに」

 深く考えず開くと、

 リプが飛び込んでくる。


『シカク〈@shikaku_◆◆◆〉ってヤツ

 サイテー!』


 え?


 思わず、スマホを落としそうになった。


『ファンとして最悪!

 距離感どうなってんの?

 気分悪いんだけど』


『やって良い事と悪い事があるよね!』


『みんなルール守ってんのが、

 なぜ分からない? 常識ないのか?』


 え? コレ、全部僕に来てるリプ?


 画面を見つめる間も、

 ピコンピコン通知が鳴り続ける。


 DMがいっぱい届く。

 震える手で開くと、


「う……」


 そこには、もっと酷い断罪が、

 僕への暴言が、書き連ねてあった。


「これ……」


 顔を上げると、ヤナギは顔をしかめて

「だから、見るな、って、言った」

 と、呟く。


「これ、なに?」

 混乱して聞くと、

 セナさんが困った顔して、


「ダイヤちゃん、さっきの配信で、

 見切れたでしょ」


 見切れた? 

 たしかに、ちょっと配信範囲に

 いちゃったけど。


「それのね。切り抜き動画が作られたの」


 え? 切り抜き? 


 セナさんがノートパソコンの

 画面を見せる。

 僕は立ち上がって、それを覗き込む。


『龍神様配信の神域に

 侵入した信者を断罪せよ!』


 そんなタイトルの動画。

 画面の端っこに映り込む僕を

 ズームして、切り抜いた動画。


 動画説明欄には

『本来、信者が入れない配信に、

 1人特別扱いされた、このユーザーを

 許してはならない。

 コラボ相手の月下時雨のファンで

 配信中の受け答えから言って

 恋人だと推測される。

 配信者と特別な関係があると言って、

 許されていいのか』


 動画の中には、声は小さいが、

 僕と時雨ちゃんの会話がある。


「時雨ちゃん、良かったよ」


「え? あんた、なんで……」


 字幕付きだ。

 そして連れ立って画面の外に出る姿。


 動画のコメントも、

 ドンドン書き込まれてる。


『アーカイブ見れるから、確認してみて!

 URL→https:〜〜   』


『コラボ相手と寝たら、せいみな様

 最前線で見れるって事?

 なにそれ、俺もするわww』


『該当ユーザーのツイッターアカ

 見つけたよー!』


『これ、ファンを入れた月下時雨が

 悪いんじゃね?』


 え? え? え? ちょっと待って……


「これ全部、僕が配信に見切れたから?」

 僕が、配信ゾーンで

 拍手を送って、手を振ったから。


 VS歌みたステージは、

 360度好きな角度から視聴できる。

 だから普通に見てるだけじゃ、

 僕なんか映り込まない。

 でも、探そうと思えば、見つかる。

 アーカイブだって残ってる。


「誤解しないでね、ダイヤちゃん。

 あなたは悪くない」


 セナさんがハッキリ言ってくれる。


「身を削ってバク処理してくれたのに、

 見切れない方が無理な話。

 あなたに協力を依頼したのは私達で

 あなたは間違ってない」


「でも……」


「龍神せいみな、が、ファン向けに

 公式アカウントで、声明を出してる」


『コラボ相手には敬意を払い、持て。

 わらわは全て納得、許可しておるし、

 なんの迷惑も感じておらぬ』


 せいみなちゃん、優しい……。

 すぐに反応してくれたんだ。

 内容的にギリギリだ。

 コレ以上の言及は、大手所属Vとして、

 NGが入る。

 相手の事情を話す訳にもいかない。


「だから、せいみなファンはいずれ

 収まると思うんだけど……」


 せいみなちゃんのファンは多い。

 変な人も、アンチも、必然的に交じる。

 だから、対処法を知ってる。


 でも、じゃあ?

 この鳴り止まない通知音は何?


「ガチ恋勢が騒ぎ出してる」

 セナさんが、残念そうに言い捨てる。


「え? 時雨ちゃんの?」


 時雨ちゃんのファンが? 

 僕が恋人だと言及されたから?


 僕はもう一度、スマホを開く。


『ファンの癖に関係持つとか正気?』


『付き合ってるって、本当ですか?

 幻滅なんですけど、ファンですら無い

 失望しました』


『時雨ちゃん汚すとか、最低最低最低!』


『時雨ちゃんは純潔が良い所なのに

 お前のせいで全部台無し!』


『そうか、クランベリープラペチーノは

 匂わせだったのか。デートしたんだろ』


『こいつら同棲してんじゃね?』


 ビクンと身体が反応した。


「おい、大丈夫か?」


 ふらつく僕を、ヤナギが支える。

 足が、ガクガクと震えていた。


「落ち着け、お前は悪くねぇ。

 好き勝手言ってるヤツは気にすんな。

 騒ぐヤツも、アンチもどこにでもいる」


 ほんとに? ほんとにそうか?

 騒いでいるヤツはアンチだから、

 便乗して問い詰めたいだけの人だから。


 違う。そうだ、


「違うんだ……」

 僕は、呟く。


「みんな、仲間だったんだ。

 同じ時雨ちゃんを応援する、同士で」


 そう、僕を断罪している人たちは、

 全然知らない人たちじゃない。

 知ってるんだ、見たことある、

 覚えがある。


 いつも、一緒に、

 時雨ちゃんを応援する、同士。

 仲間、友達。

 笑い合って、肩を並べて、

 挨拶して、いいねして、情報共有して。

 そんな、いつも一緒にいる人達。


 そしてそれは、

 僕が守りたかった物。


 僕は、時雨ちゃんも大事だけど、

 みんなも、守りたくて…… 

 誰1人、アカbanなんて、したくなくて

 戦ってきたのに。


「なのに……」


 僕は、スマホを操作し続ける。

 当然のように、炎上の矛先は

 僕だけじゃなくて、時雨ちゃんにも

 広がっていた。


『俺らを騙してたって事ですか?』


『ファンのみんなが好きって言った口で

 恋人と良いことしてたんだ、うわぁ』


『彼氏作るなとは言わないけど、

 配信に連れ回す事ないじゃん!』


『応援してたけど、フォローはずします

 みんなにもブロックするよう言います』


『あぁー。もう終わりだな、

 今は、せいみなちゃんの時代だ』


『ファンと関係持つ尻軽だったとか!

 知ってたら推さなかったのに!』


『ウソつき!』


 ビクンと震えた僕の手から、

 スマホが落ちた。

 床で、大きな音が鳴った。


「僕の、せいだ」


 僕のせいで、時雨ちゃんが炎上してる。

 時雨ちゃんが酷い事言われてる。

 みんな離れてく。

 時雨ちゃんが、頑張った結果の、

 ファンが、絆が、仲間が、

 僕のせいで、


「だから、お前のせいじゃねぇ、って」

 ヤナギがスマホを拾い上げる。


「お前は悪くない。

 もうスマホ見るのやめろ。

 ただでさえVR戦闘で、疲れてんのに」


「……返して」


「だから、もう……」


「返して」


 手を伸ばして、真っ直ぐ言うと、

 ヤナギはため息をつき、返してくれた。


 頭の中が、グシグシと侵食されていく。

 今まで見た全ての言葉が、

 攻撃してくる。


 なんでさ。なんで、こんな事に

 なってんだっけ。

 僕が、何をしたから?


 疲れた頭が、変な音をたてた。


「しばらく、自分の部屋にいる」

 それだけ言って、フラフラと

 足を踏み出す。


 とにかく、1人になりたい。

 ゆっくり、考えたい。


「おい……お前」


「入って来ないで」

 ヤナギに吐き捨てる。


 ゆっくり、扉をしめて。

 そして、その場に崩れた。


 床にへたり込んだ僕の手元で、

 スマホが、通知音を鳴らし続けた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

【次回予告】


「なんとかならないんですか?」


「今、コンプライアンス部がやってる」


「このままじゃ、アイツはずっと

 叩かれ、晒され続ける」


「だから、今、対応してるから」


「せめて、月下時雨としてコメントを

 出させて下さい」


「は?」


いつも応援ありがと☆ 毎日更新するよ!


【出演Vtuber】感謝御礼!

久不シカクさん

https://twitter.com/cube_connect_

月下時雨さん

https://twitter.com/Gekka_Shigure

(時雨さんは実際は男Vさんです)

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