第20話、白キツネV
せいみなちゃんの歌声をBGMに、
僕は壁に向かっていた。
「気合い入れて! シカクたん☆」
後ろから時雨ちゃんが応援してくれる。
「シカク君、開くよ! ゲート」
セナさんの声が通信で聞こえる。
「いつでも!」
僕は叫んでライトセーバーを構える。
壁に、光の線が伸びて、扉に変わった。
開く、ダイブゲート。
そこから産まれる黒い物体、
ドロりと飛び出した物体が、
人の形になっていく──前に切る。
切る、容赦無く。
黒い敵は、否応なく……
それはもう慈悲の欠片もなく、すぐに
紫のノイズに巻き込まれて消える。
「OK、シカク君、次、行くよ!」
また扉が現れて、敵が現れて、
それを待ち構え、すぐ切って……
敵を招き入れる、と言っても、
無制限に開放する訳にはいかない。
だから考え出された方法は、
入れ口を1ヶ所にしぼり、
1体ずつ入れ、入った瞬間に倒す。
「まだまだ行くよ! シカク君」
セナさんが扉開いて、敵を入れる。
僕がそれを切る。
かれこれ、10体以上倒してる……
んだけど……
「って、これ本当に良いんですか!
なんか、MMOのハメ技狩り場みたいに
なってますけどー」
なんかもう、流れ作業!
戦闘でもなんでもない、なんか卑怯!
いいのか、本当にコレでいいのか!
「安全に敵を倒せるから、
別にいいじゃない」
時雨ちゃんが後ろから言ってるけど
「でも、折角強化したのにー、
カッコいいライトセーバーなのにー
時雨ちゃんにいい所、見せたいのにー
地味だし、なんか卑怯ーーーー!」
「チートって、本来そういうもんだから」
「というか、結構倒してますけど、
これ、無限に湧くとかないですよね」
「それは、無いわ」
セナさんが否定してくれる。
「VRにおいて、無限は存在しないのと
同義。」
「でも、すっごく大きい数とか
じゃないですよね。
10K〈10000〉とか」
「それもないわ。負荷の関係で、
出現できる同一ギミック数は」
ギミック数は?
「最大、256体!」
「十分多い! 十分多いですけど!
もはや無限ですけどー」
「はいはい、泣き言、言わないの。
きっと、そこまで多くないわよ。
たぶん、20体くらいじゃない?」
「根拠ゼロ! まったく安心出来ない!」
「はい、扉、開くよー」
「休ませてもくれない!」
そのまま、何体が倒した時、
せいみなちゃんの曲が
フィナーレを迎えた。
ハートが吹き荒れる。
やはり、すごい量。
時雨ちゃん勝てるのかな、
と、余計な事を考える。
「ギャウ」
右肩のツイバトが、声を上げる。
よそ見するな、と怒るように。
「ごめんて。君、けっこう主張するのね」
「さっきから気になってたけど、
そのツイバトなに? なんで肩に?」
時雨ちゃんが青い鳥を指して聞く。
「なんか、なついた」
「バクプログラム飼いならすの
やめてよね。ゲーム変わるでしょ」
呆れる時雨ちゃんの後ろで、
せいみなちゃんの歌が終わった。
「みんな、ハート感謝する。
みんなが信じておるから、
わらわは神でおれるのじゃ、
心からありがとう! みんなが居る限り
わらわは歌うからなー!」
神々しい笑顔で、手を振っていた。
やっぱさすがの人気Vだ。
一通りせいみなちゃんが話した所で、
時雨ちゃんが、ステージに出て行って
「みんなー、ちょっと早いけど、
5分間休憩をもらうよー、
せいみなさん、いいよね」
「もちろん、構わぬ」
「じゃあ、みんなー、また5分後に。
浮気したら、時雨ないちゃうぞ☆」
「信者のみな、良い子で
わらわを待つのだぞ」
「それじゃあ、休憩開始!」
時雨の合図で、リスナー画面が、
一斉に休憩用サムネに変わる。
これで、配信は一時停止された。
「さぁ、シカクたん☆
休憩の間に全部倒すよ!」
戻って来た時雨ちゃんが、
にっこり笑顔で。
「え? 僕の休憩なし? マジで?」
「頑張れ、シカクとやら。
全部倒せたら、後でわらわが
特別オンステージしてやろう」
戻ってきたせいみなちゃんも、
そんな事を言うもんだから、
「だったら時雨はシカクたんだけ
新衣装のお披露目、先にしてあげるー」
ちょ! そこ張り合う所ですか!
幸せなんですけど!
浮かれていたら、
「ギャウ」
ツイバトが、扉に向かって鳴いた。
威嚇するみたいに。
ん?
開いて行く扉に目をやると、
そこから飛び出してくる、白い影。
「うわっ」
想像以上に早くて、
おもわず体制を崩す。
え? なに? 今の何?
「なにアレ!」
時雨ちゃんの声もする。
今まで、出てくるのは黒くて、
ドロッとした液体状で、それが人型に
変わっていたのに。
飛び出したそれは、白くて、早くて、
犬? 狼? 四足の素早い獣の姿で、
それが、人の姿に変わった。
あぁ、あれは、犬でも狼でもなく、
きっと、キツネなのだ。
完成した人型は、
真っ白の着物を着ていて、
キツネの面をかぶっていた。
「え? 嘘でしょ? Vライバー?」
和風テイストで、白髪のキツネ耳で
キツネ面をアイテムにしているVは
結構な割合でいる。
「え……誰?」
嫌な予感が、這い回った。
「シカク君、どうしたの?」
セナさんの慌てた声がする。
「セナさん、今出てきた、
この人誰ですか?」
簡易ネームも表示されてないけど、
データ監視してれば、表示されるはず。
「どういうこと?」
「だから、今扉から出てきたこの人です」
僕はキツネの彼? 彼女? を指して
セナさんに聞く。
彼は、なぜ扉から入ってこれたの?
「シカク君、モニターにも、データ上も
そこには誰も居ないわ」
は? へ?
誰も、いない?
僕は時雨ちゃんの方を振り返る。
「大丈夫、私にも見えてる」
時雨ちゃんが顔を引きつらせて言う。
内部ユーザーに見えるのに、
データ上は存在しない?
キツネの彼は無言で両手を広げる。
ブワァと真っ黒い塊が、彼から出て、
それが3体のジャックボットになった。
「嘘でしょ?
アイツが、生み出してる?」
引きつった顔の、僕の右肩で、
ツイバトが、ギィア、と鳴いた。
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【次回予告】
「君は、誰?」
「男性Vなの? 女性Vなの?」
「どんな顔なの? どんな声なの?
何系Vなの?」
「何の化身か、妖怪か、神様か、半獣か
一人称は何なの? 語尾は何なの?
なんて挨拶するのー?」
「いやいや、シカクたん?」
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久不シカクさん
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月下時雨さん
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(時雨さんは実際は男Vさんです)




