第12話、モーニングプレート
僕が目を覚ました時、もう朝で。
どうやら一晩中、寝てたらしい。
あれ?
なんで、ソファーで寝てるんだけ?
寝返りを打とうとして、気づく。
足のほうで、誰か突っ伏してる。
「えっと、ヤナギ?」
床に座って、ソファーに突っ伏して、
寝てる。
あぁ、僕がソファーで寝てるから
寝るとこ無かったのか。
「ヤナ──」
揺すって起こそうとしたんだけど、
その前に、ガバッと顔が上がった。
「はっ? あ……あ、お前、起きた?」
ヤナギは寝起きの、だいぶ疲れた目で
僕を見る。
「うん、起きた」
「お前、もう大丈夫?」
顔を覗き込んで、聞いてくる。
なに? 顔が近い。
「もう、平気」
吐き気も目眩もしない。
気を失ったのは、流石にびっくりした。
たしか、ジャックボット全部倒して、
でもVR酔いで強烈に気持ち悪くて、
そして──
そうだ、ヤナギに吐いたんだった。
うわぁ……
「あ……あの、ごめん」
「あ? なにが?」
「いや、その。昨日、吐いちゃって。
その……ほんと、ごめん」
いや、なんつうか、申し訳ねぇ……
不可抗力とはいえ、マジごめん……
「別に、気にすんな」
ん? え? 気にすんな?
嫌味くらいは言われるかと。
覚悟してたんだけど。
「どした?」
「いや……あ、そうだ、時雨ちゃんは?」
「ん?」
「時雨ちゃんの、台詞読み雑談枠は?」
「あぁ、昨日の夜やった。台詞も読んだ」
な!
もう終わってた? 寝てる間に!
不覚! 一生の不覚!
コメントを、コメントをしたかった……
時雨ちゃんの配信に顔出せないとか、
リアルタイムで応援出来ないとか不覚。
ファンとしてあるまじき!
くっ……不覚ううううううううううう。
「おい、なに泣いてる?」
「う……あ、あ、アーカイブ。アーカイブ
残ってるでしょうか……」
生で行けなかったのは悲しいが
めちゃくちゃドバドバ悲しいが、
せめてアーカイブで可愛い時雨ちゃんを
超絶可愛くて、恥ずかしがって、
何回かかみながら、上目つかいに
台詞読んでる時雨を見て心を慰めよう。
そして、感想を、コメントを送ろう。
必死に懇願するように言ったもんだから
ははっ、とヤナギは笑って。
「残してあるから、安心しろ」
と、僕の頭を撫でた。
よかった! マジよかった!
こういう配信はアーカイブ残さないから
マジでよかった。あぁ……ほっとした。
ん? てか 今、また頭、撫でられた?
「でも、見る必要無いかもな」
「え? なんで?」
ヤナギは、なんか視線を反らしてから。
「DM、送っといた」
ん? DM? なんの事だろ。
スマホを取り出して、通知を見る。
確かに、時雨ちゃんからのDMがある。
いったい、なに?
ツイッターのDM、届いているのは
ボイスメッセージ。
何も考えずに、再生ボタンを押すと、
『急に呼び出してごめんね!
シカク先輩☆』
「ひゃあ!」
時雨ちゃんの声で、台詞が流れて、
慌てて一時停止を押した。
「こ、こ、こ、これって」
「お前、ここで再生すんじゃねぇ、
恥ずかしい」
これは! 時雨ちゃんが読む予定だった
台詞! 先輩呼び出して告白するヤツ!
「台詞、読んでくれたの?!」
「いや、その……」
ヤナギはなんか気まずそうで、
「僕の名前入れて、時雨ちゃんの声で
台詞読んでくれたの?」
「あぁ。雑談枠終わってから、
別撮りして、送っといた」
マジで? え? マジで? え?
「別に、昨日のお礼だから」
お礼? なに言ってんの?
お礼を言うのは──
僕は手を伸ばして、ヤナギの腕を
ガシと掴んだ。
「は?」
──こっちの方だ。
「ありがとう! 嬉しい、へへっ」
言いながら、笑いがこみ上げる。
時雨ちゃんの、告白台詞……。
僕だけの、僕の名前入りの。
特別な……へへっ。
「お前……ニヤニヤすんじゃねぇ。
こっちが恥ずかしくなる」
なんでだよ。いいだろ。
推しがプレゼントくれたんだ。
喜んだって、良いじゃんね。
「ま、喜んだんなら、良かった。
朝食、作るけど、お前も食う?」
朝食? 作る? 作るの?
「え? 作るの? 作って、くれるの?」
「お前、言っただろ。作っても良いって。
作るなら、自分のも作れ、って」
「でも、冷蔵庫、からっぽでしょ」
「セナさんにお願いして
買い込んでもらった。経費で落ちる」
落ちるんだ。経費で。
「お前、目玉焼きとスクランブルエッグ
どっちが良い?」
「スクランブルエッグ」
「甘いの?」
「甘いの」
「ん。待ってろ」
ふわっと笑って、
ヤナギはキッチンに歩いて行く。
なんだ? これはなんだ?
なんか最近──
「お前、ちゃんと食わねぇから
VR酔いなんかするんだよ」
ジュージュー音をたてながら、
ヤナギが言ってくる。
「また、倒れられても、困るからな」
あー、そういう事ですか。
つまり、これは、肉体強化なんですね。
僕に飯食わせて、体力付けさせる為の。
戦う時、また酔ったら困りますもんね。
「──優しい、って思って、損した」
「なに、どした?」
皿を両手に持って、
ヤナギがリビングに戻ってくる。
結構立派なモーニングプレートが
皿に乗ってる。
「なんでもない」
「食べる?」
「食べる」
「ん」
まぁ、確かに。
久しぶりに食べた、まともな食事は、
美味しかった。
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【次回予告】
「ヤナギってさ、彼女とかいないの?」
「いたけど、いなくなった」
「それは、申し訳ない……」
「お前、責任、取ってくれんの?」
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