第11話、止まった時間
「ＶＲ酔いって、女の方がなりやすいの」
上条セナは、ソファーで眠る、
ダイヤの頭を撫でながら言う。
「そう……なんですか？」
「統計上は五倍くらいね。
個人差あるけど」
ふふっと笑って、寝ている顔を眺める。
「ヤナギ君、汚れ取れた？」
「はい、シャワー浴びましたし、
服は洗って、洗濯機回しました。
他、汚れてなかったっすか？」
「うん、ダイヤちゃんの服は平気だし、
床もＶＲ機器も汚れて無かった。
ヤナギ君が全部受け止めたから」
と、新しい服を指して言う。
シカク──不破ダイヤは、
すべてのジャックボットを消去して
ＶＲ酔いで倒れた。
おそらくは胃の中の物をすべて、
ヤナギの胸にぶちまけてから。
「セナさん。シカク、見ててくれて、
ありがとうございます。
様子、どうですか？」
「すっごく、苦しそう」
ソファーで、眠ったままのダイヤは、
相変わらず血の気のない顔で、
大きく息を繰り返していた。
脳と目の疲れは、簡単には取れない。
「大丈夫、なんですか？」
「まぁ、病院に行くような事じゃないし
安静にするしか無いわ」
酔いで病院に来られても、病院も困る。
でも、本人はすごく辛いだろう。
「俺が……無理させたから、ですか……」
セナは振り返って、
「させた自覚、あるんだ」
と、意地悪く、言い放つ。
ヤナギは顔をしかめて。
「Ｖライフは、俺らの仕事です。
これが運営停止になったら、
俺らは露頭に迷う」
「そうね」
「でも、コイツは違う」
と、苦しそうなダイヤを見て言う。
Ｖライフが無くなったって、
世界が終わる訳じゃないし、
違うゲームを始めるだけだ。
こんなに苦しむ必要は、本来、ない。
「それでも、この子の協力が、必要なの」
セナが振り返って、
真っ直ぐこっちを見て言い切る。
「今回の件で、わかった事がある」
「なんですか」
「あいつらは、君を狙って、出現してる」
「俺……月下時雨、ですか」
ジャックボットは、
月下時雨の、配信の時だけ現れる。
前回も、今回も、だ。
「理由はわからないけど。
でもこれは朗報。無差別じゃないなら
運営停止の判断は遅らせられる」
対処出来る可能性があるうちは、
全面停止の判断は保留が出来る。
「それと、ダイブゲート作るチートね」
ゲート、とセナが空中に四角を書いて
話を続ける。
フィールドにダイブゲートを作るのは
前にシカクがやったチート。
「この子が作ったチートプログラム、
敵が全く同じ物を使えました、と」
ブロックノイズスパムも、
ダイブゲート作成チートも。
シカクが作ると、ジャックボットも
使えるようになる。
「それは、どういう事ですか？」
「想像するのも怖いけど」
と、セナは笑って言う。
「まぁ、今、分かるのは
Ｖライフの時を動かせるのは
この子だけだろうな、って」
止まった時を動かせる可能性があるのは
彼女だけ。
「だから、どんな辛い思いしようが、
ぶっ倒れても、協力してもらわなきゃ」
「……本気ですか？」
「なに、情が移った？」
「そんなんじゃ……ないです」
寝てる彼女の顔は、相変わらず
苦しそうだった。
「早く俺もブロックノイズ使えるように
してくださいよ」
倒せる人間が、２人になれば、
負担も減る。
「うちのＳＥが休日返上でやってる。
ヤナギ君はヤナギ君の仕事をしなさい」
「俺の仕事って？」
「そりゃ、雑談枠で台詞よむ事でしょ
月下時雨として」
「……は？」
「鬼ごっこ中止になったんだから、
せめて雑談枠で台詞読まなきゃ、
リスナー納得しないわよ」
「いや、だって、誰も勝ってないし」
「名前は無しでも、抽選で当たった
リスナーでも良いわよ。とにかく、
準備してた台詞、読みなさい」
「マジすか……」
「ちゃんと恥ずかしがるのよ、
読もとして『やっぱり、恥ずいー』
ってのを必ずやる事」
「セナさんの、そういうこだわり、
なんなんすかー、もー」
「ほぉら、ダイヤちゃんは
見ててあげるから、早く雑談枠する」
「わかりましたよ。
あ、配信終わってからで良いんで、
お願いがあるんですけど」
「ん？」
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【次回予告】
「朝食、作るけど、お前も食う？」
「え？ 作るの？ 作って、くれるの？」
「お前、言っただろ。作っても良いって。
作るなら、自分のも作れ、って」
「でも、冷蔵庫、からっぽでしょ」
「セナさんにお願いして
買い込んでもらった」
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久不シカクさん
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月下時雨さん
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（時雨さんは実際は男Vさんです）
