二人の自分
最後に、これからについての話になった。
「一人になるのは、なんだか寂しい」
美久も、今でも同じ気持ちなのか。
「自分同士、二人で一人だったから」
「14年間一つだった。でもこの先、一緒に人生を歩む人が出来たら14年以上のものになるんじゃないかな」
「そうかもね、形は変わっていくから。だったら、戸惑っているばかりじゃなくて、自分はその中で最善を尽くしたい」
以前に見た三人の夢が心に浮かぶ。今ならかつての自分と美久の二人が見えるはずだ。そう確信できる。だけど、悩み苦しんでた頃の、三人の人間が見えたイメージも覚えておきたい。
そう、一つであったことを忘れたくないから、
「この現象の原因はいつか知りたいと思っている。科学か物理か、この現象が幻覚や幻想の可能性が高ければ精神医学の方か。何か一部でも解明できればと」
「奇遇ね。自分もそう考えていた」
良かった。
「これこそ、情報共有が必要になるね」
「異なる分野からアプローチしていくのがいいのか、同じ道を二人三脚で進む方がいいのか。全くの徒労に終わる可能性は高いが、それでもいい――」
「いいよ。構わない」
美久は問いかける前に返事をしてくれた。
「それじゃ、協力していこう。二人に分離したと思ったら、今度はパートナーになる訳か」
「結構、うまくいくんじゃない?」
「喧嘩別れでもしないように気を付けようか」
太陽が傾き、時間も遅くなってきたので美久は帰り支度を始める。ハンガーにかけていたグレーのコートを渡す時、それが古くなって最近着ていなかった事を思い出した。
「事故の時に来ていたのはボロボロになっちゃって。新しいのは買ってもらったけど、ここに来るなら一つだった時の方を着ていたかったから」
そのコートを着た美久の姿は、懐かしかった。
足はかなり良くなったので、別に見送りはいらないと言われた。
帰り際、玄関前で美久にハグをしようと提案してみた。
「気持ち悪いよ」
といって美久は笑った。そして二人で抱き合った。
もう一人の体温、もう一人の拍動、もう一人の存在。それをしっかりと感じることが出来た。
離れた美久は靴を履き、ドアノブに手をかけたところでこちらに向き直った。
そして、お互いに別れの挨拶をした。
「さよなら村山美久」
「さよなら飯田誠。またね」
了




