美久と母
母がそわそわしている。自分もなんだか緊張している。
「迷ってたりしないかしら? このアパート分かり辛い所にあるから」
「自分の家に迷う人間はいないよ」
「……そ、そうね。そうだったわね」
今日はついに美久が家にやってきて、こちら側の母と対面する。美久の引っ越しや母の仕事の都合で1月の半ばまでずれ込んでいた。待っている期間が長い分、今日までかなり美久の事を質問されてきた。
インターフォンがなり、素早く母が対応する。
「初めまして。村山美久です」
美久と対面した時の母は感激したようだった。
「家族が増えたような気がする」
「女の子連れてきたことなかったから」
「娘が出来たみたい」と、随分はしゃいでいる。
娘と言っても中身は変わらないけど。
リビングに場所を移して、自分が知っている中で一番いいお菓子と共にお茶をしている間、美久の容姿や立ち居振る舞いを何度も褒められる。気恥ずかしいが嬉しくもある。
ごく最近まで一緒に暮らしてもいたので、積もる話があるようなないような。結果的に、事前にある程度美久の事を伝えてもいる。それでも恐らく、息子からよりも娘のような存在から、村山美久の人生を教えてもらう事が興味をそそられるようだ。
美久の話が事故のくだりに触れると、母の声のトーンが急に変わり、
「事故の時にそばにいれなくてごめんね」
と謝った。




