思い出した事
部活には終業式前日まで休まず出た。事故前の体力には戻せた自信がある。
「最近調子いいよね」
汗をぬぐいながら政也が声をかけてきた。
「まあな」
「あのさ、ここのところさ、誠はなんか元気なさそうというか、暗かったじゃん?」
「うん、まあ色々と」
どう説明すればいいか。政也にはあまり嘘を重ねたくない。
「悩みか何かあった? 中学に入った頃とかと同じ感じだったから気になってて」
それは多分、父が亡くなってすぐの時の事だろうか。
そういえば――、中学入学時、珍しく政也が強引に部活に誘ってきた。「きっと楽しいよ」、と。そんな風に言って。
今頃になって気づいた。あれは塞ぎ込む自分を心配して、少しでも気を晴らそうとしてくれてたんだ。
「うまく言えないけど……、吹っ切れたっていうのはあるよ」
そこから先は何も説明できなかったけど、
「それだったらよかった」
政也はそう言ってくれた。
いつか、政也にも打ち明けられるだろうか。
年が明け、美久が姫路から戻ってきた。
美久と母が会うのは仕事の都合で明後日になった。
今日は千夏の家に二人とも招かれている。
千夏の部屋は自分や美久の発想ではない、かわいらしいキャラクター物のぬいぐるみや、パステルカラーの雑貨やグッズなどで彩られていた。
三人でテーブルに座ると、全員がお互いの顔を物珍し気に見比べる。
「やっぱり不思議な感じ」
「なんか気持ち悪いな」
「どちらのせいかな」
口々に感想を言い合った。
「怪我人にかける言葉じゃないね」
「美久も同じ事を思ったんじゃない?」
「だとしても、私はちなっちゃんのようなまだ綺麗な表現の方がいいな」
千夏はくすくすと笑った。
「三人でおしゃべりするなんて、こんなこと一人のままならできなかったんだから」
いい笑顔だった。
病院では他人の目を避けてあまり深い話をしなかったり、二人だけで深刻に話し込んだり、ちゃんとした形でこうやって三人で話せたのは今まで無かった。そもそも美久の意識回復直後は、まだ誠と美久は別の人間だと思われていたから。




