両親の想い
長くなりそうと伝えると、夕食の後で話すことになった。
母に話すことはある意味残酷な事だ。二人の自分を否定していた過去が間違っていたと教える事になるから。それとも、この歳にもなってファンタジーの世界から抜け出せていないことを嘆かれるだろうか。
腹をくくっていたつもりでも緊張していく。夕食の味はほとんど感じられなかったが、がんばって完食した。
母は食後に、温かい紅茶を淹れてくれた。
初めに説明したのは今日出かけたのが兵庫県の姫路で、子供の頃に何度も話していたもう一人の自分の故郷である事。それからそのもう一人の自分というものが子供の空想の産物ではなく、証明できるものはないが事実であった事。これまでの人生、二人きりで二重の人生を送っていた事。そして今回、美久側の事故でそれが失われて飯田誠と村山美久の二人になった事を説明した。
説明の途中で母が口を挟むことは少なく、驚きなのかショックなのか小さな相槌しかしなかった。
すべてを話し終えると母は、顔の上半分を両手で覆い、しばらく下を向いて黙っていた。信じてもらえただろうか。どこまで理解しもらえたか分からない。だけど真剣に聞いてくれたのは感じた。
それでも、これまでの話は全部嘘だった、そう言ってしまいたくなる気持ちは何度も湧き上がってきた。一回一回の呼吸がやたらと重く感じてしまう。こんな話をして、また母を苦しめてるのではないのか。全てを分かってもらおうなんて自分勝手なだけじゃないのか。
何も変わらずにいる方が――、そんな気持ちに支配されてきた時、母は顔を上げゆっくりと語りだした。優しい声だった。
「お父さんがね、言っていたの。偶然だと思うけど亡くなる前日に。『あの子は私達とは違った世界が見えている。その世界が存在するかは別として、あの子にとってはそれが真実なのだろう。病院に連れて行った後の様子からもそう思う。あの子は頭がいい子だ。何も話してくれなくなったのは理由があるはずだ。もしまたその世界について話してくれたら、ちゃんと話を聞いて受け止めてあげたい』って。
お母さんはね、ずっとそれが忘れられなかったの」
そう思って――いてくれてたんだ。
父は僕の言った事を否定せずに、信じてくれていた――。
視界がぼやけてきた。
「ずっと、ちゃんと話せなくて、ごめん」
「そんなことないよ。誠は何回も、お母さんたちに伝えようとしてくれていた、それを信じてあげられなかったから――」
自分だけでなく、母の目からも涙が流れていた。
「お母さんたちはあなたの事を半分しか、ううん、一部しか理解してあげられなかったのね」
そう言って母は涙をぬぐった。




