お別れ
「うん、俺にとってはいいきっかけになったよ。今から思えば会いたくないと決別したというよりは迷っていただけだったから、おかげで面倒なことから逃げなくて済んだ。それに生きているうちに母にも会えたし、かわいい妹にも会えた」
「え?」
妹?
「弟さんではなくて?」
「いや、妹だけど……言ってなかったっけ?」
「そういえば……」
確かに杉本さんは『兄弟』とだけで、弟とは言っていなかったはず。最初の『もう一人の自分』から勝手に杉本さんの分身や、杉本さんの子供のころのイメージが先行して勘違いしてしまったようだ。
杉本さんは頭を掻きながら申し訳なさそうにしている。
「はっきり言わなかった俺が悪かったかな。自分も赤ん坊の時しか会ったことなかったから、あの最初に見かけた時の男っぽい服装のイメージで表現したせいかも」
「いえこちらこそ、失礼しました」
そして一瞬、目の前の杉本さんの女装姿を想像してしまい、すぐに打ち消した。
もうこの街ともお別れか。
夕方になり、帰りの新幹線に間に合うよう早足で駅に向かう。この駅への行程は旅に出かけるような始まりのものではなく、自分の家に戻る帰り道。美久も近いうちにこの街を去る。その時は自分とはまた違った感慨を抱くのだろう。
駅の改札が近づいてきた時、何となく杉本さんの妹さんの姿を探してみた。すると実際に杉本さんの面影があるような女の子を見つけた。一度ここですれ違った妹さんらしき子とも似ているようにも思える。この子がそうだったら面白い偶然だな、と思ったけど確かめる時間もその術もなく、そのまま新幹線のホームに向かった。
新幹線の窓越しの街の景色を、短時間しか見れなかったのは残念だった。
家に到着した頃には辺りはすっかり日が暮れていた。
「どこに行っていたの」
前回よりも遅い時間の帰宅は当然母に心配された。
遅くなった時の言い訳は用意してたが――代わりに新幹線の中でずっと考えていた事を母に告げる。
「実は今日行っていた先にも関係あるんだけど、母さんに話があるんだ」
「話?」
「うん。大事な話」
全てを話そう。そう決めた。
勇気は、出そうと思わなければ出せない。いい機会だ。




