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2/1 -いちぶんのに-  作者: 藍内
旅・故郷
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壁のある故郷

 前回の姫路行きは期待と不安を抱えていた。今回は希望か絶望か。 

 姫路駅の改札を通り、見慣れた駅構内を抜け、何度も目にした駅前の風景が目に入る。

 美久側で過ごした時とは違う。前に来た時とも違う。どこか自分の暮らす街ではない、過去の記憶にだけあるもののようで、何か壁があるように感じた。

 その気持ちを噛みしめながら街を歩く。週末の駅前や商店街はごった返している。行き交う人並み。その中には一人ぐらい知り合いがいてもおかしくない、美久だけの知り合いが。見知った顔を見つけようと無意識に視線を向けてしまう。見つけてもむなしい思いをするだけだと分かっているのに。

 家族や友達と時々この辺りに遊びに出ていた。

 賑わいのある商店街を抜けた脇道に小さな洋食屋がある。家のお気に入りのレストランで、昔はよく週末に食べに来ていた。優しいおじいさんがコックをしていて、誕生日にケーキを、しかもイチゴがこぼれそうなぐらい乗ったものを出してくれた。

 最近は行っていなかったけど元気にしているだろうか。少し足を止めていると窓越しにおじいさんの姿が見えた。帽子の下は完全に白髪になっているが、それ以外はほとんど変わらない。

 懐かしい。だけどこの思い出は一つであった時の美久のもの。今の誠のものではない。


 城を横目に、繁華街を外れてしばらく歩くと大きな公園が見えた。家からは離れていたが遊具の種類が豊富で何度か来ていた。今も寒さに負けず数人の子供が大きな声を上げながら遊んでいる。そこに美久の家の近所のおばさん――いや、お姉さんと呼ばなければいけない人がベビーカーを押して公園に入っていくのが見えた。その横からお姉さんの娘が全速力で駆け出し、制止の声をかけている。数か月前に下の子が生まれたのは聞いていた。もし自分が美久だったら声をかけて赤ちゃんを見せてもらうのに。


 川沿いの道を歩く。ここは風が強い。通学に使う橋はまだ少し遠い。この辺りの河川敷で昔自転車の練習をよくした。誠の側でも同時期に練習したので、それ程ここでは苦労しなかった。美久の父がやたらとほめてくれたのを思い出す。それでも何度かは転んだが、泣くのは我慢した。4歳ぐらいなら泣いた方が自然だったかもしれない、と小学生になった頃に思い返した記憶がある。


 千夏の住んでいた団地の跡地が近づいてくる。更地になった後長らく放置されていたが、そろそろ工事が始まるらしく、看板が出ていた。確か複合型のショッピングセンターが出来るはず。

 ここも川沿いのように遮蔽物がないため風がダイレクトに来る。日差しは十分にあるが、少し体が冷えてきた。手をこすり合わせる。

 千夏の事をもっと信頼すればよかった。どこか同年齢の子を年下のように軽く見る癖があったのだろう。それが災いした。思春期になって物の分別が付くようになった今だからこそ理解してくれたのかもしれないが、そうでなくても心の支えにはなってくれたはず。


 誰かが死んだ訳でも、遠い外国に行ってしまった訳でもない。無理すれば会うことだって出来る。でも現状は、悲観しなくていいとは言いきれない。

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