話し合い
「もう! 誠君にとってはみくちゃんも自分の一部なんでしょ? 大事にしてあげて」
「一部、じゃないね。自分そのものだよ。――そのものだったよ」
「だったらなおさら。バラバラになったままじゃ大変だよ。一緒にいた方がいいよ。同じ悩みを持ってる唯一の人なんだから」
同じじゃない、と言いかけたけど、たとえ方向性が異なっても出発点は一緒だったはずだ。物の考えや出している結論が違っても根っこの所はそう変わらない。同じ人間――だったのだから。
「分かった。もう一度ちゃんと話してみるよ」
それで自分たちの違いが浮き彫りになっても。目をそらしたままではずっとそのままだから。
「良かった」
千夏はほっとしたような表情をした。
心配、かけてしまったな。
「最近まともに話せてなかったけど、千夏に促してもらったんだ」
「そっか」
相変わらず空気が重い。病院の中は暖房がついていて十分に暖かいけど、空気がよどんでいる気がする。
不用意な言葉は意見の食い違いや対立を生んでしまう。それを恐れて必要以上に慎重になってしまってたが、そればかりも言ってられない。
「手紙では情報交換してても、細かい所までは共有できないから」
「そうだね。以前のように完全な共有は難しくても、特にこういう状況の時は出来る範囲でしておきたい」
共有は複数の人間が介在する時に行うこと。一人であった頃に対しては、そういう表現にはならないはず。――いや、小さな事に神経を尖らせ過ぎだ。
「それと、少なくとも退院して日常生活に問題なくなるまでは、もちろん過剰に関わって周囲の目を引かない程度までだけどサポートするつもりだ」
「それは助かるよ」
それから先は――。
「別にそんな風に期間を決めなくても、こちらからも今後何か助けられることがあったらサポートするよ」
「あ、ありがとう。頼むよ」
意外だった。こちらの考えに譲歩してくれたのかもしれない。
「自分の方からは……そうだね、莉子は前半は見ていた通りだったけど、後半は調子を取り戻してずっとしゃべってたね」
「いつも通りだな」
「昨日も来てくれてて、芽衣もすごく心配してたって教えてくれた」
芽衣? 奈良原さんの事か。
「あとはこの前のテストの愚痴とか噂話とか、お正月前に来たけどしっかりお年玉は手に入れたとか」
テストか。勉強は手につかなかったけど、とりあえず今回の分は今までの貯金で何とかした。これから先の事は進路も含めて考えないと。
「身体の方は可もなく不可もなくかな。足の事もあるし、この事故の怪我とは長い付き合いになりそう」
「分かっているだろうけど、焦らずに」
「そうするしかないよね」
そう言って美久は微笑む。
何か違和感がある。美久の仕草、表情、声。自分はこんな話し方だったろうか。過敏になっているだけならいいのだけど。しかし過去の一つの自分じゃなく、事故後の美久と比べてもどこか違う気がする。徐々に変化してきているのは分かっていても、それがはっきりと表れて来ると動揺を隠せない。誠側の自分はどうだ? 大きく変わってはいないと思いたい。だけど事故の当事者と第三者では、その気持ちに寄り添ったつもりでもその部分はずれが生じてしまう。
「これだったら誠の方が良かったかも。足が悪くない方がいいに決まってる」
ぽつりとつぶやく美久。その言葉には嘆きを含んでいるように聞こえる。




