二人になった『自分』
「自分よりも半歩でも思索が進んでいるとして、これからどうしていくかアイデアは何か浮かんでる?」
先程までややうつむきながら話をしていた美久は、今は顔を上げてこちらを見ている。
「そんなに都合よくはいかないね。現状やこの現象に対する把握、そしてそれにどう向き合っていくのか、手探りで考えていくことには変わりがないよ。ただこの事故と分離があってから――まだ考えはまとまっていないけど、以前とは少し捉え方が違う部分も出てきた」
「違う部分?」
「そこまでの差はないかもしれないけど、……そうね、二人になった原因や、そもそも一人で二人だったことに対しては、調べたり真相を探ったりすることは後回しというか、ほとんど放棄しているのは今までと同じ」
いつか知ることが出来たら、でもほとんど期待していない。
「それよりまずは事故以前の元々の姿から一卵性双生児のように、あの事故から二人が生まれたと考えるのが自然なのか、それとも――重なっていた二人が別れて本来の姿になっているのがこの状態なのか。だってそうでしょ? 一人が二人になる、増えている訳だから。ならそれはどこから来るの? コピーのように合成されたか、そうでなければもともと二人だったのが一人に見えていたかでないとおかしい」
それは――、そんな事はあるわけがない。
「自分たちは一人だった、一人だけだったはずだ。最初から二人だった訳じゃない」
たとえ今は二人でも。
思い出す、これまで生きてきた時間。自分達は、肉体ではなく心は、精神は一つだった。
一つじゃないなんて、そんなことを本気で疑うような場面はなかったはずだ。
「状況が変わったからそんなこともあり得るように感じているだけじゃないか? 例えば片腕を失った人が何十年も経て片腕のみの生活に慣れれば、両腕が健在だった時の事がしっくりこなくなるみたいに」
「あくまでも仮定の話だよ。色々と考えていけば誠も同じようにそういう可能性にも思い至るよ」
「そう――なのか?」
「いや、そうとは限らないか。環境が大きく違っているのだから別の結論になるかも」
一人が二人に分かれたのでなく、二人が一人のように振る舞っていた、一人と錯覚した状態だった。それはもちろんいくらでもある考察の一つで、実際そうだった可能性は消せない。けれど、感情的には認められない。
なぜ美久はそんな考えを持っているのだ?
「結局その辺りはまだ何もまともな結論は出せそうもないかな。これから先も、何も分からない」
これから先、か。
「また、元に戻れるかな」
「自分達みたいなイレギュラーなものがこの世に存在していたし、いつの間にか強制的にまともな状態にさせられているし。元に戻ることがあってもおかしくないよ。何でもありな世界なら」
「そうであって欲しい。……だから今後は、出来る範囲でだけど連絡は取りあったり会う機会を作ったり寄り添って、お互いの経験や考えを共有して――」
美久は何故か首を振る。
「そうじゃないと思う。二人の交流自体は必要だと思う。しかしそれに捕らわれない方がいい」
何を――何を言ってるんだ。




