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2/1 -いちぶんのに-  作者: 藍内
半分
64/98

一人だけの『自分』

「今日は、忙しい中お見舞いに来ていただいてありがとうございました。自分の良く分からない話にも付き合っていただいて。あ、それと介抱もありがとうございました」

「いや、大したことしてないよ」

 そういえば――、

「今更ですけど、どうして杉本さんはここまで? 姫路から遠いのに」

「ああ、もともと東京で就活の予定があって、それで美久さんが事故にあったと聞いてたし、村山からも様子を見てくれって」

 だからスーツ姿だったのか。

「そうですか、わざわざすみません」

「いいよ、東京からの電車賃も村山にもらってるし」

 美久側の人間の名前が出て少し辛い気持ちになった。美久の側の人間は誰も今の自分を知らない。もしかしたらもう2度と会わないかもしれない。

 杉本さんは帰り際、そういえば美久さんからも同じことを聞かれたな、とポツリと言っているのを聞いた。




 誠のままであっても、最悪な気分よりはわずかにまともな朝だった。自分の特異な状況を少しでも理解してくれる人がいる。自分の中で美久の部分が失われたことが確信に近づきつつあっても、まだ耐えられる。

 今日こそはどこかで美久と話せるだろうか。せめてまた手紙を介して意志を確認できれば。


 美久はあの手紙を読んでどんな反応をするのか心配をしていたが、意外にも穏やかな表情で千夏と談笑していた。千夏は一足先に来て美久と話してたらしい。

「とっても不思議な感じがしたの。今でも二人の顔を見ると信じられないような気持ち」

 母がいるため余計なことを千夏が話さないか気になったけど、抽象的な表現にとどめて報告と感想を言ってくれた。あまり多くの人に広めるのは怖いというこちらの気持ちを察してくれたのか、美久の方から希望を伝えてくれていたのかどちらかかな。

「みくちゃんもびっくりしてた」

 美久はメモで事故後の状況は理解しているはずだけど、なぜ自分が千夏に打ち明けたのか、きっかけは分からないだろう。

「結果的には良かったと思う」

 美久はそう言った。

 少なくとも千夏を信じるという選択には納得できたみたいだ。ただやはり第三者がいるため、具体的なことは話しにくい。このままここで話していても進展はなさそうだ。美久から手紙はもらったので、そっちの方が重要そうだ。

 早めに病室を出ようとすると、意外にも千夏も一緒に帰ろうとする。美久の反応は特に目立ったものはなく、普通にお別れを言ってきた。

 美久の手紙を開こうとすると千夏が聞いてきた。

「みくちゃんはなんて書いてあるの?」

「ちょっと待って」

 手紙は昨日と同じく短かった。

『まだ長文はむずかしい あした話をしたい』

 文字が昨日よりはマシになったとは言え崩れているのは事故の影響か。この手紙は千夏と話す前に書かれたのだと思う。この文章だけでは情報交換をしたいという要望は読み取れるけど、どういう感情で自分たちの離別を受け止めているかは分からない。明日はどういう話になるのだろう。

「明日話をしたいって。それで悪いけど、明日は自分達だけで話したいな」

「分かった。でも多分明日も来てるかな。二人の邪魔はしないから。みくちゃんとももうちょっとおしゃべりしたいし」

「ごめんね」

 今日だけでは足りないぐらい積もる話もあるだろうけど、誠である自分と話せばいい、とまでは思えないのだろう。それか――それだけ美久である自分の怪我を気にかけてくれているのか。

 ただでさえ友人の大事故という大変な思いをしているのに、自分たちの個人的な問題まで背負わせて負担をかけてしまっている。杉本さんだって、就活中に無理をして来てくれたのに余計なことで悩ませてしまった。


「どうしてみくちゃんと誠君はそうなってたのかな」

 帰り道、千夏のしてきた質問に「分からない」としか返事できなかった。

 分からない。結局分からないまま。強引にその問題は解決させられている。これで幕引きなのか――? 無かったことになるのか――?

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