二つの『自分』
――え?
これは、いったい何を表している――?
その意味を悟った時、目の前が真っ暗になった。
平衡感覚が失われていく。このままでは倒れてしまいそうな予感がし、必死で近くの長椅子へ向かう。千夏が声をかけてくれるのは何とかわかる。そしてもう一人、どこかで聞いた声の人が一緒になって体を支えてくれている。誰だろうか。
何とか長椅子の上に体を投げ出す。呼吸が荒くなっているのが分かる。大丈夫かとの問いに少しめまいがしただけですと答える。
これは、一時的に切り替わりが遅れてずれているのではない。今の自分がこれから美久に入れ替わったらこんな文章にはならない。そう――、今の美久は自分とは別に思考し、動いている、自分とは別の存在になっているんだ。
自分は、二つに別れてしまった?
焦ってはいけない、これはまだ、あくまでも仮定の話だ。いったん美久に替われば確認できる――違う、もしそれが正しかったらもう自分は美久には戻らない、ずっと誠のままだ。
誰かが呼んでくれたのか看護師さんが様子を診に来てくれた。貧血かめまいの様なのでしばらく安静にして、それでも気分が良くならなかったら病院の職員に声をかけるようにと指示をくれた。
とにかく、美久と話をして現状を把握しないと。そう思い、まだあまり回復しきっていない体を無理やり起こす。
「大丈夫? まだ休んでた方がいいよ」
千夏の制止を振り切り立ち上がろうとすると、こちらに向かって歩いている杉本さんに気が付いた。
「杉本さん? どうしてここに?」
驚いて声を上げると、紺色のスーツ姿の杉本さんはそれ以上にびっくりした顔をした。
「え? そう、だけど。もしかしてさっきの君が飯田君?」
「そうで……す……」
「良かった。同じ歳の男子って事しか分からなくて自信なかったけど。なんか、向こうが俺の顔を知っているとは言ってたけど」
どうしてここに杉本さんが? そしてさっきの、とは?
「あの人、飯田君が倒れそうになった時に助けてくれたんだよ」
千夏が先程の状況を教えてくれた。
「そうなんだ。あの……、先程はありがとうございました」
「そんな、大したことはしてないよ。ええと、そうだ。美久さんから君にこれを渡して欲しいと言われて」
そう言って杉本さんが差し出したのは何の変哲もないボールペンだった。はっきりと覚えてはいないけど、確かこのメモ用紙と一緒に棚に置かれていたものだ。
「これは君のもの?」
「いえ、違います。けど、これは多分美久からのメッセージです」
それは美久の側の自分からのSOS。恐らく今のままでは第三者抜きで話をする機会はほとんどない。電話やメールも今までの経験上期待できないのならば、直接手紙をやり取りするのが一番現実的な方法だ。このボールペンは、早く返事が欲しいという意思を伝えるためのものだ。
お礼を言ってペンを受け取り、美久から渡されたメモの裏側に今の状況を簡潔に記し始める。伝えなければいけない。きっと伝えなければ分からない。思考が、知識が、記憶が同一の、全く同じ一人の人間ではなくなったのだから。そういう予感がした。
自分が、半分無くなってしまう――。




