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2/1 -いちぶんのに-  作者: 藍内
半分
60/98

『自分』と『自分』

 こうなってくると美久側に切り替わった時に、誠側の過去が、誠側で把握していた美久の言動が改変されないためにはかなりの無理が生じる。それどころか、そもそもこれだけ二人の自分の距離が縮まっていて接触が容易になっている以上、それぐらいのことは大きな問題ではなく、収束の為にそれを超えた無茶な改変が起こなわれるかもしれない。

 いや、美久が昨日意識を取り戻したと言ってもほとんど夢の中にいるような、記憶に留められないような混濁した意識状態だというなら辻褄は合う。

 そう、事故や意識の障害といった異常事態で精神的にまいってしまって、冷静に判断できずに悪い妄想が膨らんでいるだけだ。そうに違いない、と自分に言い聞かせる。

 ただ万が一の可能性が頭をよぎり、千夏の家に電話をかけてみる。連絡があるとすれば千夏の方だ。

 悪い予感がしてという言い訳に千夏は戸惑った声を出したけど、

「特にみくちゃんの悪い知らせは来ていないよ」

 と、答えてくれた。お礼を言い、胸をなでおろす。考えたくもなかったけど、美久が昨夜のうちに死んだという線は薄い。



 学校が同じタイミングで終わったので病院までの道中は千夏と一緒になった。しかし切り替わらないという問題と、正常な状態での自分同士の初対面への緊張で頭がいっぱいになり、会話の返答は上の空だった。


 病室の美久は眠っていた。母によるとつい10分前ぐらいまでは起きて何かメモを書いていたらしい。

 肩透かしだったけど、少しほっとした。ベットの隣の棚にボールペンと折りたたまれた紙があった。あれがそのメモだろう。自分の手紙であり、内容が気になるけどここで勝手に見るわけにはいかない。

 目をつぶっている美久は昨日と特に様子は変わらない。むしろ生気を取り戻した母の方が変化が大きい気がする。千夏はみくちゃんと話せなくて残念だなと言ったけど、快方に向かっているので安心しているようだ。母と昔の思い出話で笑顔も見せた。

「二人とも学校終わりでお腹空いたでしょう」

 と、母からおやつとしてクッキーをもらって千夏と一緒に食べた。

 そのクッキーを食べ終わった頃、美久の目がゆっくりと開いた。

「――美久?」

 声をかけると、美久は首を動かしてじっとこちらを見つめてきた。

「――誠? ……あ、ちなっちゃん」

 千夏は枕元に駆け寄り、涙を流して喜んだ。

「良かった……。みくちゃん……、心配したんだよ」

 しばらくその調子でこちらは何もできなかったので、やっぱり自分で発した声と対話で聞く声は聞こえ方が違うな、などと多少は落ち着いて考えられた。


 初めての対面は表面上和やかなものだった。千夏が落ち着いてから、一年程度しかやり取りをしていないネットを通じた友人として、自分同士ぎこちないやり取りで当たり障りのない会話をした。思っていたよりも違和感がない。普通に話せている。まるで同年代の普通の女子と話しているようだ。でも第三者がいるため、美久として今日この場にいるまでに何か問題や異変がなかったか、結局切り替わったのは昨日の美久からなのか、今日の美久からなのかなど決定的なことは話せない。

 どうしてだろう? どうして美久はこちらを見てそんな何かを訴えるような表情をするんだ。何か美久側で伝えておくべきことがあるのかな。自分も美久もさっきから、時々同じように千夏や母を見る。考えていることは二人だけで話す機会がないかということ。しかし難しそうだ。仕方がない。引っかかるものはあったけど、今日この場所では話せないようならば、次の切り替わりで分かるのだからここで無理をする必要はない。

「みくちゃんも疲れてきたと思うし、そろそろ帰ろっか」

「うん」

「ごめんなさいね。まだ長時間起きているのは大変みたいで」

「いいんです。久しぶりにみくちゃんとお話しできてうれしかったです」

 千夏が母としゃべってわずかに美久から目を話した時に、棚にあったメモを美久が渡してきた。その後すぐに千夏がこちらに振り向いたので、とっさにポケットの中に入れる。このメモは美久が事前に準備していたものだ。恐らく何らかのメッセージを伝えるために。

「それじゃお大事にね」

 千夏が帰り際、両手で美久の手を包み込んで別れの挨拶をすると、

「また来てね」

 と美久が千夏の目を見つめ、それからまっすぐにこちらを見てきた。


 病室を出る時に、もう横になっておきなさいという言葉とベッドのリクライニングを戻す音が聞こえた。

 左を歩く千夏に見えないようにポケットからメモを取り出し、片手でゆっくりメモを開く。そこには少し震えたような不安定な字が書かれていた。

『きりかわらない じょうきょうをしりたい』

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