『自分』の生死
「私のせいかな。ちなっちゃんからメール来てたのに気づかなくって。もし私がすぐ気づいて、先に会う約束でも出来てれば、何か違ってて、事故にあわなかったかも」
「……それは違うよ」
これは誠としてだけでなく、美久側も含んだ自分の言葉。新居の見学中に起こった事故で、約束の有無で変わるような事ではないし、そうでなくてもメールの返信したかどうかなんかで責任を負う必要はない。
千夏は泣き続けていた。自分がさっき流した涙とは違うもの。
自分はまだ生きている。美久としてではないけど、誠としては無事に何の障害もなく生きている。そう伝えて慰められれば。でもそれでは意味がない。きっとここにいるみんなは、誠が生きているだけでは駄目なはずだ。
美久は死んでしまうのか――? じっと手術中のランプを見つめる。
誠の父の時を思い出してしまいそうになり、必死に頭からその情景を追い出す。
その時は、誠の父は死んでしまったから。
正確な時間は分からないけど、千夏が来てから一時間ほどで美久の手術は終わった。自分が席を外していた内に集中治療室への移動が行われ、美久と対面することはなかった。美久の状態は思わしくないようで、意識は未だ戻らない。まだ死んでいない。これから死ぬかどうかは分からない……。
美久の両親に帰宅を促され、外が暗くなっていることに気が付いた。
帰らなきゃ。どこに? 姫路に? このまま美久の両親とともに美久の家に帰れないかなと思ってしまう。美久ではない自分では何の解決にもならないのに。
そうだ、友達――莉子や奈良原さん達への連絡はどうなっているんだろう。まだ両親はそこまで出来ていないかもしれない。美久の携帯のアドレス帳は念のために電車の中でメモを取っている。ただ、自分では、誠の自分ではそれが出来ない。
その日は千夏を家まで送ったけど、会話はほとんどしなかった。
わずかな希望と祈りを込めて床に就いた。
だけど美久に変わっていないかという期待は、起きてすぐに失望に変わった。ただ、誠である自分が生きていることだけは希望と言えた。
夢を見ていた。トラックが迫ってくる夢を。あれは美久に切り替わった時に見た夢ではないのか、美久側の意識は戻ってきたのではと一筋の光が見えた気がした。しかし美久の時に見た光景は当然意識に刻まれていて、誠側でその夢を見ることは十分あり得るので何も判断材料にはならないと気づく。こんな風に夢をどちらで見ているかなんて、普段は大して気にしていなかった。
起き上がる。想像以上に体が重い。これは、精神的なものだろう。
自分は生きているのか? 幽霊ではなく? 自分の片割れが死の淵をさまよっているから、今の自分は生霊のような存在なのかも。
身支度を整えるとすぐに病院に向かう。
美久の容体は多少安定してきているらしいけど、まだ面会はできない。
美久の父は疲れ切った様子だった。母は仮眠をとっているらしくその場にはいない。父とは最低限の会話しかしなかった。疲労がたまっているからだろうか。もし自分が美久だったら、同じような状態の時でももう少し話してくれてただろうか、とふと思った。
千夏に美久の状態と、面会謝絶なのを電話で伝える。千夏は面会できなくても来るそうだ。
その日は結局美久に会うことは出来なかった。




