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2/1 -いちぶんのに-  作者: 藍内
半分
56/98

『自分』の行方

 千夏は携帯をもってないから家に電話するしかない。病院の最寄りの駅から到着するまでの間に美久の事故の事を伝えた。事故を知って気が動転したようだったけど、「すぐに行く」と言っていた。


 西部総合病院は改装したのか、記憶にある姿とはまるで違っていた。しかし入り口や建物の配置自体は変わっていないようで、迷うことはなかった。受付で聞いた2階奥の手術室、その前の長椅子に両親がいた、美久側の両親が。美久はまだ手術中か。表示用のライトは点灯している。まだ距離のある段階で美久の母がこちらに顔を向けたけど、何も反応はなく、すぐに反対側の美久の父の側に向き直した。当然だろう。

 こちらに興味を向けない両親に声をかける。

「すみません、先ほど電話しました飯田です。落とし物を持ってきました」

 そして、見慣れた美久の父と母に、他人として初めて対面する。

「ありがとうございます。ほら、母さん。さっき話してた美久のお友達だよ」

「どうもありがとうございます。全然気づきもしなかったので助かります」

 よそよそしい会話。

「それで、美久さんの容体はどうなっていますか?」

「まだ分からなくて。お医者さんからは頭に強い衝撃を受けているので、まだ何とも言えないと」

 事故の原因はまだ調査中だけど、恐らくはトラックの運転手の居眠りや不注意が原因らしい。

「私が、目を話したせいで、こんな事に……」

 それは違う、きっと自分の不注意のせいだと告げたかった。母の目の周りが赤い。涙はすでに散々流した後なのだろう。何か声をかけたかったけど、何も言えなかった。

 誠の自分は他人だ。自分はここでは家族ではない。

 自分のために憔悴している両親の姿が居たたまれず、拾った鞄と携帯を渡すとその場から離れてしまった。しかし美久の容体が気がかりで、結局一階の待合室や入り口の辺りで落ち着きなく歩き回ってしまう。美久の手術が終わるのはいつ頃だろう。結果はどうなる? ――これから自分はどうなる?

 自分の体を抱きしめていた腕の力が強くなる。痛い。自分はまだ生きている。だけど――。美久は生きている。まだ生きている、そのはずだ。

 以前から考えていた事。自分が死んだらどうなる? 自分はどういう形で死ぬ? 片方だけが死んだ時、もう片方は生き残れるのか? それらが現実に迫ってきている。

 魂一つ、肉体二つという一番イメージしやすい形、もしこの肉体の一つだけが駄目になれば、魂一つ・肉体一つで継続していくようにも思える。しかし、どうしても悪い想像に傾いてしまう。仮に肉体と魂が完全に分離されるものではなく、肉体の一つが死ぬことでそこに宿る魂にも深刻なダメージが与えられたり、それにくっついている、繋がっているもう一つの肉体もろとも死んでもおかしくはない。と、そう言った方に。

 何も分からない。誰もどうなるか分からないだろう。

 涙が出ていた。何のための涙? 恐怖なのか? 自分の事に流す涙なんて、大した価値はない。

 病院の入り口が空き、外の冷たい風が入ってくる。扉を開けたのは千夏だった。走ってきたのか息を切らし、髪が乱れている。

「ちなっちゃん!」

 混乱していたせいか美久側の呼び方で千夏を呼んでいた。

「飯田君、……みくちゃんは大丈夫? みくちゃんはどうなってるの?」

 しかし千夏はそれについて疑問を持った様子はない。こちらに駆け寄ってきた千夏はひどく焦っているようだ。簡単に先ほど聞いていた容体を説明し、根拠もなく「心配しないで」と言って落ち着かせ、手術室の前まで連れていく。

 美久の両親は千夏の顔に見覚えがあったらしく、再会と、面会に来てくれたことを喜んだ。

 手術はまだ続いていた。

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