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2/1 -いちぶんのに-  作者: 藍内
半分
55/98

焦り

 慌ててそれを拾い上げる。いつものように指紋認証でロック解除をしようとしてしまうけど、当然誠の体ではできない。ロックナンバーで解除して電話帳を開き、美久の父に電話をかける。

 発信音が鳴り続ける間、早く、早く、繋がれ、と焦りが募る。

「はい、……ええと、村山です」

 少し時間はかかったけど繋がった。良かった。

「あの、事故現場にこの携帯と鞄が落ちていましたので電話させてもらいました」

「あ……、そうだったんですか。それはありがとうございます」

「村山美久さん、のお父さんですか。電話帳に書かれてるのですが」

「ええ、そうです」

「自分は――」

 飯田誠という名前を美久の側の家族に言う事に躊躇した。幼少期に口にしていたのは飯田誠と言うもう一人の人間の存在やそれに関わる世界が中心で、その氏名そのものは少なく、それほど印象に残っていなかったのかもしれないけど。

「飯田誠と申しまして、美久さんの友人です。たまたまカバンや携帯が散らばっているのを見つけて」

「そうなんですか? すみません」

「いえ。それで……、美久さんが事故にあったんですか?」

 一瞬の間があってから美久の父が答えた。

「はい、トラックに轢かれて」

 否定の言葉は帰ってこなかった。あの記憶は間違いでも悪夢でもなかった。

「美久さんの怪我は大丈夫ですか?」

 生きていますか? と聞いてしまいそうになったけど堪える。

「今のところはまだ……。なにぶん大きな怪我で、今も手術中なので」

「そう……ですか」

 ショックな答えではあったけど、それでも生きている。まだ生きている。自分が――誠が生きているんだ、美久だけ死ぬなんてあってたまるか。そう思わなければ。

「大変なところ申し訳ないですけど、鞄を届けに行きたいので、どちらの病院にいらっしゃいますか」

「それは、わざわざありがとうございます」

 そう言って美久の父は病院名を教えてくれた。西部総合病院――。あの時、誠の父が運ばれていた病院だ。地図を調べると、ここからまた電車を使って20分ぐらいかかる。

 急いで病院に向かおうとすると着信があった。自分のではなく美久の携帯に。

 表示されている名前は――杉本さんだ。躊躇はしたけれど、早足で歩きながら電話に出る。

「もしもし、美久さん?」

「すみません、美久さんは事故にあって電話に出られないので、自分が代わりに出ています。美久さんの友人の飯田誠と申します」

「え?」

 そういったきり杉本さんから明瞭な言葉は出なくなった。戸惑っているだろう。代理の人間が出るだけでなく、事故という重大な情報も一緒に聞かされたのだから。

「美久さんはまだ治療中みたいです。緊急の用件がありましたら、落ち着き次第代わりに伝えますので」

「ああ、そう……。ありがとう……。ええと……」

「もしかして、杉本さんの兄弟やお母さんの件ですか?」

 驚きの声が受話器越しに響いた。

「どうしてそれを?」

「自分は、美久さんともよく話をしていますから。デリケートなことまで遠慮なく聞いてて申し訳ないですけど」

 多少の迷いはあったけど、今は早く情報交換をしたい。

「そう……か。じゃあ美久さんに伝えといてもらえるかな。色々考えて、母にもう一度会ってみることにしたと」

「そうなんですか? 良かったですね。必ず美久さんに伝えておきます」

 一体どういう心境の変化があったのか、しかし今はそれを聞く余裕はない。電話を切った時には駅に着いていた。

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