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2/1 -いちぶんのに-  作者: 藍内
第三者
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期待と不安と

 単身赴任ではなく一家全員での引っ越しになった。住み慣れた街や友達と離れることになるため両親はごめんねと謝ってきたけど、自分にとっては朗報だ。

 今まで距離があったせいで会いに行けたのは一回しかなかった。だけどこれからはその気になればいくらでもチャンスがある。でもそうなった時、一体どんなトラブルが起きてくるのだろうか。自分同士の接触では、これまで一応は明らかな超常現象は起きたりせず、あくまで現実に起こりえるトラブルだけだった。しかしこれだけ距離が縮まり、物理的な接触が容易になって回数が増えれば、その全てが偶然失敗になる確率は相当に低くなるのでは。

 実際にどうなってしまうのか不安はあるけれど、淡い期待を抱いてしまう。




 少し肌寒い。コートの下も厚着をしていたのは正解だった。今日は12月1日の土曜日。年末年始はバタバタするので1月の二週目ぐらいに引っ越しの予定らしい。ちなみに今日埼玉に来たのはその下見を兼ねている。

 新居の候補地は、誠の家からは電車の移動を含めて30~40分ぐらいかかる。誠の家が郊外にあるせいだ。それでも新幹線の停まるこの大宮駅からの眺めはそれなりに見覚えがある。ただ、見慣れた風景を相手側の目を通じてみる経験は二回目なので、前回ほどの感慨はない。あくまで風景だから。

 誠はここにいない。それどころか会いに来る予定もない。

 下見に行く日を聞かされたのは確かに前日の11月30日で急だったし、現在は誠の日が先行しているから余裕はそこまでなかったと言っても、ここに来ることぐらいは何の問題もないはずだ。しかし今日、11月30日当日の誠の時は、この下見の事が全く頭になかった。不自然なほど記憶から抜け落ちていた。いつものように学校に行き、土曜日の部活は早めに終わるため3時ぐらいには家に帰り、珍しく昼寝をし――、そこから先は覚えていない。その日は特に記憶に残るような変わったことはなかったのか。それともそこで美久の側に戻ったのでは。

 夜ではなく昼寝で入れ替わったのは数年ぶりだ。些細なことかもしれないけど、こういった機会に普段とは違うことが起きるというのは不安要素だ。


 物件の下見はほぼ候補が決まっていたようで、実物を見ての確認をするだけであまり時間はかからないらしい。

「順調に終わったら帰るまでに観光でもしようか?」

 と提案が父からあった。願ってもない展開だ。あとはどう理由をつけて、特に観光名所のない誠の家の近くまで誘導するか。何か考えておかなければ。千夏には昨夜、今日埼玉に来ることをメールをしたけど、遅かったからか今朝の段階では返事は来てなかった。千夏には悪いけど誠側ですでに会ってるので、今日は無理してまで再会しようとは思っていない。一番大事な誠との対面を最優先にしなければ。ただ、今日は難しいのかもしれないけれど。


 新居の候補は駅からやや離れているけど新し目のマンションだった。姫路の家より少し狭くなるみたいだけど、十分だと思う。

 新しい生活はどんな感じになるんだろう。誠と当たり前のように交流が持てて、互いの家を行き来するなんてこともあるんだろうか。……どうもうまく想像ができない。

 後回しにしてしまっているけれど、千夏と再会できるのは楽しみだ。数分前に帰ってきたメールでは千夏もすごく喜んでくれていた。自分は誠として結構前に再会しているので、おかしな温度差は出来ているけど、今度はちゃんと仲の良かった幼なじみとして会える。

 莉子には引っ越しが決まった日の夜にメールをした。するとすぐに電話がかかってきて、泣きながら文句を言われた。そこで初めて知ったけど莉子の祖父母が埼玉にいるらしく、正月かお盆には「絶対会いに行く!」と断言された。奈良原さんも「せっかく仲良くなれたのに」と言ってくれた。

 自分を取り巻く環境が大きく変化していく。それが良い方向に行ってくれれば。


 マンションから出たところで、不動産屋さんが車を回してくれるというのでしばらく待つ事になった。周囲を見渡すけど、やはり今のところ誠が現れる気配はない。

「あ、車来たよ」

 両親が不動産屋さんの軽自動車の方に歩いて行ったので、自分も遅れてついていく。

 突然、大きな車のブレーキ音と共にトラックが目前まで迫ってきた――

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