『もう一人の自分』の結末
「それでも、会えるのなら会うべきだと自分は思います。相手の気持ちではなく、杉本さん自身は本当はどう思ってるんですか? 離れることを杉本さん自身が決めた訳ではないのですよね」
言った瞬間から気づいた。自分はなんて身勝手なことを言っているのだろう。そんなのは杉本さんが決めることだ。いくら自分が『もう一人の自分』に会いたくても会えなくて、そうではない杉本さんの状況をうらやんでいても。
自分は、結局自分自身の事しか考えていない。
「うん、言ってることは分かるよ。心配してくれていることも。だけどすぐに気持ちの整理はつけられないよ」
それでも、杉本さんは冷静に答えを返してくれた。
「それにそこまで美久さんがこだわるような事でもない気がするんだ。ほら、あくまでもたまたま、村山の親戚とかで関わりがあっただけなんだし」
「普通に考えればそうですよね」
ここで自分は一瞬ためらった。けれど、今までだったらしないようなギリギリの線まで踏み込んだ。
「でもどうしても気になるんですよ。実は突拍子もない話かもしれませんけど、最近読んだSF小説に一人の人間が別々の二人の人生を生きていて、その二人は別の場所でですけど、同じ時代を共に生きているという設定があるんです。そしてその主人公はどうしても『もう一人の自分』に出会うことが出来ずに苦しんでいるんです。これがとても印象に残ってて、なので最初に杉本さんが『もう一人の自分』と言っていた時に、そっくりだなあと思って興味を持って。もちろん小説とは違いますけど、それまで出会うこともなかった人が近くまで来ているのに、再会することが出来るのに、そのために動く気がないのがすごくもどかしくなるんです」
自分の事ではなく小説の話として予防線は張ったけど、こうしてはっきり言葉にして人に伝えたのはいつ以来だろう。わずかに声が震え、携帯を持つ手に力は入ったけれど、不自然に思われない程度にはスムーズに話せたと思う。
「あの……、自分勝手な理由で、ごめんなさい」
「いやいや、別にそんな、まあ珍しい話で気にかかるとは思うし、俺のためを思ってそう言ってくれるんだから……」
こんな事を聞かされても杉本さんとしては反応に困るはずだ。
しばらく沈黙が続いたけど、杉本さんは大人の対応をしてくれた。
「とりあえずまあ、一度じっくり考えてみるよ」
「すみません」
電話を切ろうとしたところ、質問があった。
「あとさ、その……さっき言ってた小説って、二人はどうなるの?」
「それは――、まだ途中までしか読んでいなくて、結末は――分かりません」
「そう。うまくいけばいいね」




