変な話
「あの、コーヒーで」
「美久ちゃんは紅茶で良かったよね?」
「はい。お願いします」
注文が終わってからしばらく沈黙があった後、先に切り出したのは杉本さんの方だった。
「えーと、村山さん」
「美久でいいですよ。ややこしいですから」
「分かった。じゃあ美久さん、えっとこの前は、何だか変なことを口走っちゃったみたいで」
その件について杉本さんの方から話題にしてくれるのは有り難かった。不自然にならないような切り出し方は、特に思いついていなかったから。
そこまで話したところでコーヒーと紅茶が運ばれてきた。おじさんから、荷物はキッチンの方に置いているので帰る時に忘れないよう声をかけて、と頼まれる。
紅茶にミルクを入れてかき混ぜている間に杉本さんへの返答を考える。
「変なことって、『もう一人の自分』の事でしょうか?」
杉本さんの目が見開いた。直接的に聞き過ぎてしまったかな? 知らず知らずの内に自分は焦っているのかもしれない。
「……別に、あれは最近よく見る幻覚というか、夢みたいなもので、そんなに面白い話ではないよ」
『もう一人の自分』について、杉本さんはいるではなく見ると表現している。
「よく見るんですか? ドッペルゲンガーとかでしたら怖いですね」
「いや、それが自分そのものじゃなくて、なんていうか昔の、10歳前後ぐらいかな? その頃ぐらいの僕の姿に似ている分身のようなものがね、一瞬そこにいるように見えるんだ」
自分と同じ様に不思議な話だけど、やはり違う。今のところ共通点の方が少ないぐらいだ。もしかしたら自分と同じ状態なのでは、と期待していた。まだこの時点での判断は早いけれど、このまま空振りに終わりそうな気がする。
「あー、別に僕はそんな、視える人とかじゃなくて、幽霊とかも信じてる方じゃないし、だからほんとにそういう夢や白昼夢を見ることが時々あるってだけなんだ。それもおかしな話だけど……」
「そういう風に見えるのは昔からなんですか?」
「それが結構最近で……」
しかも自分とは違い、後天的なもののようだ。
杉本さんは頭をかき、コーヒーを一口飲む。
「あれかな? 今時の中学生の女の子にはこういうオカルト話って流行ってるの? 僕の時は小学生までだったけど」
特にそう言うわけでは、と言いそうになったけれど勘違いをしてもらえるならばその方がいい。
「ちょっと子供っぽいかもしれないですけど、まだまだそういう話は人気ですよ。コックリさんとかまではしませんけど」
「そうなんだ。あんまり面白くない話だと思ったんだけど」
「いえ、そんなことないですよ。それで、最近と言ってましたけど、何かきっかけとかあるんですか?」




