臆病
カウンセリングが始まってしばらくたった頃、誠の父の本棚にイマジナリーフレンドや解離性同一性障害と言った、精神医学や心理学などの本が置かれていたのを覚えている。当時でも、詳しい内容までは分からなくても、その意味については理解できる部分があった。それ以外にも、誠の父に「誠は……、大丈夫か?」と尋ねられる事が何度かあった。もう一人の自分についてあまり話さなくなっても。
そしてもう、誠の父に全てを打ち明けることは出来ない。今でも後悔している。だけど――。
きっと両親たちなら、信じてもらえなくても受け止めてくれるはずと頭では分かる。分かっている、でも――ためらってしまう。
自分は臆病な人間だ。
「ただいまー」
丁度支度が済んだところで母が帰ってきた。おかえり、と声をかけると、買い物袋を下げた母がため息をつきながら台所に入ってきた。少し疲れているようだった。
父が亡くなった後保険金が入ってきたとは言え、あまり余裕のある生活ではない。母は働きに出たけど特に何か資格や特別なスキルがある訳ではないらしく、稼ぎのいい仕事には中々つけていないようだ。それでも、
「ちゃんと誠には大学まで行ってもらうからね。それぐらいのお金ぐらい何とかなるから」
と無理をしてもらっている。部活も始めるつもりはなかったけれど、父を亡くし一時期ふさぎ込んでいた自分を心配してか、何か始めるように再三すすめられた。征也にサッカー部に入るよう誘われて迷った時も後押ししてくれた。
今はそこまで父を思い出すことも、話題に出すこともなくなっている。




