突然の雨と出会い
「ほらっ、食べ終わったらさっきの続きするよ」
「えーっ、おやつ食べたんだから休憩しようよー」
予想通り莉子は文句を言うけど、莉子の言うとおりにしていたら日が暮れてしまいそうだ。
何だかんだと言いながら――かなり文句は多かったけど――4時過ぎには大体の範囲は終えることができた。
「はい、お疲れさま」
「……はーい……」
莉子は精も根も尽き果てた様子でテーブルに突っ伏した。
「まったく、何考えてこんな時期に特別テストなんてやんのよー。あの先生がテストやりたいだけじゃないの?」
「そんなことないよ、って言いきれない所あるね、あの川田先生なら」
夏が近づいて日の落ちるのも遅くなってきたとはいえ、暗くなる前に早めに帰るよう促す。勉強の後、久しぶりにトランプで遊んでいたら、莉子の「もう一回」につられて遅くなってしまった。
玄関まで歩いている間も、莉子は特別テストと授業のスピードの早さについてブツブツ言っていたけど、別れ際に、
「今日はありがとねー。美久はホント優しいよね」
と言ってニコッと笑顔を見せた。
じゃーね、と言って美久が出て行った後、急に外が騒がしくなったので様子を確認すると、雨が降り出していた。ゲリラ豪雨だろうか。
美久の家はマンションの4階なので、急げば外に出る前の莉子に追いつくはず。傘を手にして1階へ急ぐ。
マンションの正面玄関で、莉子が「えーっ」と不満の声を上げているところにちょうど間に合った。
「うそー、美久ありがとー! ん? あれ? 芽衣? こんなとこで何してんの?」
と、大きな声で誰かに話しかけた視線の先には、マンションの前を横切る傘を差した女の子がいた。芽衣? 確か奈良原さんのことだったと思う。莉子経由で最近知り合った背の高い子だ。
莉子の声に気づいて振り返った女の子は、予想通り奈良原さんだった。ジャージ姿で、弓道部の部活帰りだろう、大きなバッグを持っている。
「あんたの家こっちじゃないでしょ?」
「あー……、今日はちょっとおばあちゃん家に寄るから……。あれ、村山さん?」
「あ、お疲れ様。莉子がテストの――」
「そうなの! いきなり特別テストって言われて、頭に来たけどまたママに怒られるの嫌だから美久にお願いして教えてもらってたの」
「あれ? テストっていつ?」
「うちのクラスだけだと思うよ、川田先生が――」
「毛の薄い川田がね、嫌がらせだよ絶対」
まくしたてる莉子に、奈良原さんはのんびりした口調で楽しそうに笑う。
「あの先生そんなに言うほどはげてるかなぁ」
「絶対そうだって! うまいこと隠してるけど。風が強い日とかよく見てみたら――」
どうして莉子はそんなに川田先生に厳しいのだろう。何か恨みでもあるのか――あるのかも。少なくともテストの件で、現在進行形で恨みを買っている。