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2/1 -いちぶんのに-  作者: 藍内
誕生と異常
1/98

いちぶんのに

毎週土曜日前後の更新を予定しています。

 これはとても個人的で、スケールの小さな話です。


          *


 自分が二人いる。

 自分たちの状態を端的に言えばそういうことになる。

 二重人格というよりもその逆と考えると比較的わかりやすい。大雑把な例えだけど、一つの身体に二人の人格ではなく、二人の身体に自分一人が入っているような形だ。


 自分は村山美久という兵庫県在住の女子中学生であり、飯田誠という埼玉県在住の男子中学生でもある。


          *


 朝、目覚まし時計を三回ほど止めたところで観念してベッドからもぞもぞと這い出す。あと5分の誘惑にはかられるけど、これ以上は母が起こしに来るので根性を出さないと。誠の体のように――もう一人の自分のように――低血圧でなければ楽なのに。

 ゆっくりと起き上がる。多分、一日の中で一番辛い時間かな。まぶたを半分だけ開けながら、よく『女の子らしくない』と言われる殺風景な部屋をふらふらと移動していく。まだ目の焦点は合っていないけど、慣れているから結構何とかなる。

 廊下に出て大あくびをしているところで父とすれ違う。

「おはよう」

「おは……よう……」

 あいさつを返す間にまたあくびが出た。

 父は悲しそうな目をしながら、

「年頃の娘が、はしたないなあ」

 とぼやいた。はしたない、とは古くさい言い方だと思った。まあ、言われるのもしょうがない。


 学校に行く頃にはしっかり目も冴えて、授業も真面目に聞き、『しっかり者』という評判通りに来週の課外活動の班長として、見学コースの詳細を同じ班の子たちにホームルームで伝達する。与えられた役割をちゃんと処理しているだけで、勝手にそういった評判が出来上がっている。

 いつものように特に何もない日。印象に残ったのは少し日差しが強くて暑かったことぐらい。そういえば今日は6月1日。いつの間にか新学年になってから2か月もたっていた。

 そんなことを考えながら床につく。


          *


 朝、台所の母の足音で目が覚める。

 誠の方の体は美久のように低血圧ではないので、一度でベッドから起きる。

 今日も6月1日。こっちの学校では月初めに朝礼がある。暑い日になることを知っているから着る物を調整する。

 トーストとサラダの簡単な朝食を食べながらテレビのニュースを見る。美久の時に見たものと同じ内容。どこそこで交通事故があったとか、どこかで聞いた名前の政治家の汚職が発覚したとか。あまり印象には残っていなかったけど、全く同じ映像とナレーションを流されれば思い出す。


 外へ出ると美久の時よりも暑さを感じた。美久の体との感覚の違いなのか、場所による気候の差なのか。

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