異世界恋愛に憧れて
とある王国のとある伯爵家に、金色に輝く美しい髪を持つ女の子がいました。
女の子はその髪の美しさから国の第1王子に見初められ、王子の婚約者となり、未来の王妃となるべく厳しい教育を施されました。
ゆとりなど夢のまた夢、女の子は疲弊しました。
疲れ果てました。
明るい未来など一切見えず、見える先は真っ暗闇。
お先真っ暗な未来など耐えられないと、枕を日々涙で濡らし、未来を自分の手で変えようと企みました。
「よし、鎌倉に行こう」
女の子は髪の毛を1本、2本と引き抜いて、全部で7本の金色に輝く髪の毛を机の上に並べました。
「井出よ、いでよ」
女の子の部屋のドアがコンコンとノックされました。
「お呼びでしょうか、お嬢様」
家令の井出の声に、女の子は入室するよう命じました。
扉が開いた勢いでわずかに風が生じ、7本の金色に輝く髪の毛がはらはらりと全て床に落ちていきました。
加齢による腰痛と四十肩など屁ともせず、井出は華麗に腰を折り曲げ、丁寧にお辞儀しました。
「わたくしと鎌倉に逃げてくださる?」
前置き無く、単刀直入に女の子、もといお嬢様は要件を言いました。
「某はお嬢様に忠誠を誓っておりますれば。お嬢様の為とあらば、地の果て空の果て墓場の手前までもついてゆく所存」
すぐにでも出立したいと訴えるお嬢様に、井出は腹ごしらえを提案しました。
「腹が減ってはなんとやら。急ごしらえのカツカレーをば」
先んじて懐で温めていたレトルトカレーと砂糖のご飯を皿に移し、井出はお嬢様の大好物のかなり甘口カツカレー(カツ無し)を机にコトリと置きました。
井出は所持していた彫刻刀の刃を自身の親指にさっと滑らせ、カレンダーの日付の1箇所を赤い花丸でくるるんと囲みました。
そして、お嬢様の机の引き出しから竹製の30センチ物差しを取り出し、両肩をトントン拍子で叩いてから、所持していたレーザーポインターでカレンダーの花丸を指し示しました。
「然るべき時、決行は明日の晩と致しましょうぞ」
お嬢様は猫舌の為、はふはふしながら井出の愛情たっぷり甘口カレーを食べています。
お嬢様が手に持つ木の匙は、井出が竹藪に生えたもと光る竹を彫刻刀で削って手ずから作ったもので、お嬢様の小さなお口に丁度良いサイズ感でした。
その後、お夜食でお腹がふくれたお嬢様は丁寧に歯磨きし、井出が仕上げ磨きをし、お嬢様はすやすやと眠り、翌日は早朝から晩まで厳しい妃教育を受けました。
身も心もくたびれてふらふらになりながら自室に戻ったお嬢様は、前日と同様に髪の毛を1本、2本と引き抜いて、全部で7本の金色に輝く髪の毛を机の上に並べました。
両手をかざし、無詠唱で魔術を行使します。
7本の髪の毛はみるみるうちに黄金に光輝くホウキへと姿を変えました。
「井出よ、いでよ」
召喚した井出をホウキの背に乗せ、お嬢様は窓から井出と共に鎌倉を目指し飛び立ちました。
途中、井出の亡き妻で元侍女頭が眠る墓場の手前でホウキを降り、2人そろって墓前で手を合わせました。
「すまない、お前というものがありながら」
「わたくしが井出を必ずや幸せにしてみせますわ」
墓場から出て再びホウキにまたがり、お嬢様と井出は鎌倉を目指す愛の逃避行を続けるのでした。
第1王子の婚約者と伯爵家の家令が消えた日の晩、国のあちこちで黄金に光輝く流れ星の目撃情報があったといいます。
流れ星を見た人々は悪政を敷く国が崩壊することを望み、ほどなくして、王国はとある幕府に倒されるのでした。




