病気という名の収集
電報が届いた。
その電報のせいで話は中断された訳だが、そんなこともすっとぶぐらいのものだった。
「こ、国王様が、お倒れに…!!」
電報を伝えに来た女は切れ切れにそう言った。
やはり父親だからだろうか、三つ子は揃って驚愕の表情をした。
あのターナーでさえもそうなったのだ。
こうなっては駆け引きなんてできたものではない。
俺たちはすぐにみんなで馬車を城へと走らせた。
「国王って病気なのか?」
小さい声で肩のアリスに聞いた。
さすがに三つ子には聞けないし、ルクスもどことなく顔が堅かったので自然とアリスに聞かざる得なかったのだ。
「…詳しくは知らないけど、もう歳だしね。病気の1つや2つあるでしょう」
確かにかなりの歳っぽかったし、病気ぐらいするだろう。
しかし今のこの状況で倒れるってヤバくないか?
マーサだっていないこんな時に…。
面倒なことになりそうだ。
俺とアリスとルクスは王の私室に入るつもりはなかったのだが、先に来ていたアマネに促され結局足を踏み入れることとなった。
王の部屋はマーサと似たり寄ったりの部屋だ。
その大きめのベッドの周りにはアマネと三つ子、そしてまだ知らぬ女2人、男というより少年に近い男が1人いる。
残りの兄妹たちだろう。
皆が暗い顔でベッドを囲んでいるが、俺はその輪の中には入らなかった。
ただ入れなかっただけだ。
ベッドの周りには7人の男女。
そこにはマーサだけが欠けている。
この兄妹たちの表情を見れば、王がどれだけ慕われていたかが分かる。
マーサがこの状況を知ったならば、たぶん同じような表情をするだろうし、皆と同じようにこの場に立ち合いたいと思うのだろう。
果たして俺の考えは正しかったのか。
マーサにとってプラスになる何かを生むのだろうか。
「双波…?」
アリスの声ではっとなった。
こんな考え俺らしくない。
しっかりしろ!
俺が俺でなくなったら、帰ってきたマーサはどうするんだ!
「そこに…、救世主はいるのか…」
国王の小さく擦れた声がかろうじて聞こえてきた。
自然と背筋がぴんと伸びる。
7人の兄妹たちはみんなでこちらを見つめ、アマネが音もなく枕元から身を引いた。
暗にココに来いと言っている。
ルクスへと視線を移すと、ルクスは肩を竦めた。
俺は行かないがお前は行けよ。
ルクスは瞳でそう語った。
ならばと、アリスだけは肩から逃げないようにと手で押さえ付けた。
1人でなんて行ける訳がないのだ。
国王の威圧感はもちろんのこと、その遺伝子を受け継いだ奴らが7人もいるのだから、とても1人では乗り切れない。
勘弁願いたい。
御免被りたい。
しかし行かなければならないのが今の現状である。
アリスがバタバタ暴れたが、俺はお構いなしに国王の元へと歩いた。
国王は青白い顔で、しかも痩せた。
痩せたと言うより痩けたに近いそれは、擬いもなく病気を物語っている。
あの威厳は今はない。
威圧感を漂わせるほどの覇気は皆無だ。
痛々しい。
国王を見ての俺の感想はそんなものだった。
自分が思っている以上に俺は冷たい人間なのか、それとも他人に対しては皆そうなのか。
国王は気配を感じ取ったのか、薄らと目を開けた。
まだ目は生きている。
なんとなくそう思った。
「マーサを、どこにやった…」
聞き返したくなるほどの小さい声で国王は言った。
「マーサを、どこにやったのだ…!」
小さいけれど、強い声。
なんだ。
国王もちゃんと父親なんだな。
「今は旅に出てます」
国王はうなり声を上げた。
怒りのような、悔しんでいるような、そんなうなり声だ。
しかし俺は構わずに続けた。
「マーサは国の頂点に立とうっていう意志を持って旅立った。だから必ず帰ってくる」
俺は断言した。
実のところ確証はないし、柄にもなく不安もある。
「帰ってくる」
というマーサの言葉を信じていたい。
だからこうして自ら兄妹巡りをしたのだ。
マーサは帰ってくる。
信じたい。
信じてる。
待つのも救世主の役目なのか…。
更新が遅くて本当に申し訳ないです…。
最近明るくなりきらない話が続いてるのにも申し訳ない…。
一応コメディーにしてあるんですけどねー…。
最後まで読んでいただきありがとうございました。