グロテスクだけど神の化身
俺はマーサからここのことをあれやこれやと聞きまくった。
そこで分かったのが、ここは俺の知る世界とはまったく違うが、同じ地球という星なのだそうだ。
俺の知る地球と同じように水が豊かで、星の大半は海らしい。
しかし俺の(面倒だから知るは省くが)地球よりも幾分か小さいらしく、星を一周するのには、馬車と船で半月もあれば回れるらしい。
そして地図を見るかぎり、大陸は大きく2つで、あとは島が点々としている程度だった。
同じ地球という名前だが、似ているところは少ないようだ。
「そしてこの世界はクリスタルゲーブという。クリスタルゲーブには3大国に分けられ、その1つがリストレアなのだ」
マーサはなんだかんだで丁寧に俺に教えてくれた。
変態だが良い奴だ。
「へぇー。ならマーサは王子サマってか?」
「最初から余はそう言っておったではないか!」
知ーらね。
てかあんな状況で覚えてられるかよ。
「それよりも、お前その喋り方やめろよ。なんかムカつく」
「ムカつく…」
かくりと音が聞こえそうに、マーサは頭を垂れた。
俺に大分慣れたらしい。
「し、しかし余は曲がりなりにも次期国王であるからして…」
「俺に関係ねぇもーん」
俺はこの世界の人間じゃねぇし、ぶっちゃけ国王とかの凄さなんか分からない。
日本の場合天皇だし、天皇は日本の象徴だ、って習った。
象徴ってなんだ。
結局よく分からないまま中学を卒業したし、分からないままこれからも生きていくと思う。
それに不自由なんか感じない。
「…いいよ、もう。僕もなんだか疲れたよ…」
なんだ。
普通に喋れるじゃん。
マーサは俺に憂鬱そうな視線を向けた。
「で、双波はこれからどうするの?というか、そもそもどこからどうやって僕の私室なんか入ったの?それなりに頑丈な警護がされてたと思うんだけど…」
「俺もそこ疑問なんだよなぁ。昼寝して目が覚めたらここだった、みたいな?」
「え?」
俺だって教えて欲しい。
どうやったらこんな非現実的なことが起きるんだ。
考えたって答えが出る話でもないので、俺は早速考えるのをやめた。
「あれだ」
「?」
「夢かもな」
「…それって僕はどんな反応すればいいの?」
俺はメルヘンチックな性格じゃない。
そして現実逃避したくなるような柔な性格でもない。
そしたら夢以外にあるかと言われれば、俺はないと答える。
つまり消去法でやった。
マーサには長々と説明してもらったが、よく考えたら無駄な説明である。
俺にとって吸収するべき内容ではない。
敢えて挙げるとすれば、いい暇潰しになったというとこか。
その時、耳元でバサバサという羽音がした。
「ん?」
俺は少なからず衝撃を受けた。
脳内だけの衝撃ではなく、外面的にも衝撃を受けた。
羽音を響かせているそれを目に留めた瞬間、それに体当たりされた。
…痛かった。
「あ、アナマリス…?」
あなまりす…?
アナマリスってなんだよ。
アマリリスの間違いじゃね?
アマリリスは聞いたことがあるが、アナマリスは初耳だ。
マーサがアナマリスといったそれは、リスのような体に、トンボの羽を気持ち大きくした羽を背中にくっつけて飛んでいた。
可愛い風貌だが、表現を考えたらなんともグロテスクだ。
「初めまして、伊吹双波。そしてマーサ王子」
「「喋った!」」
俺とマーサの言葉が被った。
やはりこのトンボリスが喋るのはおかしいのか?
俺はそんな疑問を込めてマーサに視線を移した。
マーサはすぐにそれを理解した。
「アナマリスは神様の化身とされてるけど、喋るアナマリスは初めてだよ」
「神の化身?なんじゃそりゃ」
俺がマーサに視線を向けていたため、第二のアナマリスの攻撃をまたしても真に頬に受けた。
よくよく見れば足蹴されている。
「いって!何すんださっきからテメェは!」
アナマリスを掴もうと手を伸ばすと、マーサが慌てて俺の手にしがみ付いた。
その間にアナマリスは俺との距離を広げた。
「神様の化身に何するつもり!?罰当たるよ!」
「ここの世界の神と俺は何も関係ねぇだろが!」
「でも双波が今居るのはこの世界だよ!」
あ、確かに。
「でも2回も蹴られて黙ってられるかー!!」
トンボリスめ。
丸焼きにして食ってやる。
「ふん。カルシウムの足りない男」
「まじで食うぞ!」
「双波罰当たり!」
ここでやっとマーサがまともに見え始めた。
1話はまだ続きますよ。