第1話:初めましては笑顔でしよう
「どこだ、ここ…?」
俺の名前は伊吹双波。
純粋な日本人である。
別に頭を打った覚えはないし、そもそも転んでも殴られてもいないはずで。
そして寝ていた訳でもないから、夢という線も間違いだろうか。
つまり俺が言いたいのは、このメルヘンチックな格好した変態は、何者だと言う話だ。
いきなり湧いて出てきたのかも。
いや、俺はこの場所は知らないし、湧いて出てきたのはもしや俺の方か?
「く、曲者…?」
と目の前のメルヘンチックな格好した変態の男は小さく呟いた。
いやいや、聞くか?
「違う。むしろテメェのが曲者じゃね?」
「な、何を言うかっ。ここは余の邸なのだぞっ?」
なんだこいつ…。
すっげぇあたふたしている変態な男を、俺は奇異な物を見るような目で見つめた。
変な喋り方をする奴だ。
変態なのは格好だけでなく話し方もだったとは。
救いようがない。
「まぁいいや。ここどこだよ?つかお前誰?」
変態な男は驚愕したような表情をした。
されても俺としてはどうしようもない。
何が何だか何もかも分からないのに、フォローのしようもないのだから。
「余のことを、知らぬのか…?」
面倒な奴だな…。
「だから教えろっつってんの。お前は誰で、ここはどこだ」
俺の怒りの剣幕に、変態な男はびくりと肩を震わした。
「余はリストレア・ドゥバナード・アナ・クリスタルゲーブ・マーサ、ここはリストレア城の余の私室だ」
「……は?」
「リストレア・ドゥバナード・アナ・クリスタルゲーブ・マーサ。そしてここは余の私室」
これっぽっちも理解できない。
つまりなんだ?
名前が以上に長いとか、そういうパターンってことか?
「…じゃあお前、みんなに何て呼ばれてんだ?」
「殿下が大半だ。あと、マーサ様と呼ばれることもしばしばあるが…。それよりそちのお前というのは無礼であろうが!」
「しょうがねぇだろ。お前のこと知らねぇんだもん。これからはマーサって呼んでやるよ」
「よ、呼び捨て…!?」
少なからずショックを受けたような顔をしたマーサをそのままに、俺は笑顔を向けてやった。
初めましての挨拶は、笑顔でするべきだと親父に教わった。
「俺は伊吹双波。双波でいいぞ」
「…ソーハ?」
「カタコトで呼ぶな。双波!」
「双波…」
「あぁ。よろしくな」
ひょんな出会いとはこう言うのだろうか。
訳の分からないところにいた割には落ち着いていたなと後々思うのだが、まぁいい思い出として残ることとなるだろう。
乗り掛かった船、とよく言うが、たぶんもうこの時点でおれは船に右足を突っ込んでいたと思う。
つまり回避不能だった。
まだまだこれからです。