誰かにそっくり少年白ウサギ
俺は少年白ウサギをおんぶしながらその田舎を駆け抜けた。
クマ吉とかいろんな二本足で立つ服を着た動物たちがそれを見守るだけで、追い掛けては来なかった。
俺がそう仕向けたんだから当たり前か。
「着いてきたらこいつを…、分かるよな?」
我ながら最低なことをしていると思う。
足を一歩づつ前に出す度にその罪悪感は増していった。
どこまで走ろうとかはない。
目的地なんか分からないし、どこに行けばいいとかも分からない。
不安だった。
行きたいって言い出したのは自分なくせに、もう帰りたいと思ってる。
1人で逃げるようなことをして、罪悪感と不安に苛まれ、俺は何がしたいんだ?
俺にいったい何が出来るんだ?
「…ごめんな」
「え…?」
少年白ウサギにそう言うと、不思議そうな声が返ってきた。
俺は近辺に誰もいないことを確認してから立ち止まり、背負っていた少年白ウサギを下ろした。
「ここから家まで帰れるか?」
少年白ウサギは俺を伺うように頷いた。
「よし、帰っていいぞ。こっからは1人で行く」
なんでこの少年白ウサギに宣言してんだ俺は…。
言葉とは裏腹に結構孤独を感じているのかもしれない。
今まで親や友達もいない全く知らない世界に飛ばされても淋しさを感じていなかったのは、マーサやアリスたちのお陰だったんだ。
今さら気付く俺ってなんなんだろうなぁ。
そう言えばマーサに一度お礼されたっけな。
むしろ俺も言うべきなのに。
「あの…」
「あ?」
視線を向ければさっきの少年白ウサギだった。
まだ居たのか?
「何やってんだよ。さっさと帰れって」
またあのクマ吉がくわ持って来るかもしんねぇじゃん。
まだ死にたくないぞ。
「ごめんなさい…」
「い、いや…」
あまりに素直な反応に、逆にたじたじさせられた。
マーサ並に素直な奴だ。
まぁこいつは子供だし、当たり前と言えば当たり前だろう。
うーん…どうするかな…。
「えー…。俺に聞きたいことでもあるのか?」
少年白ウサギはパッと顔を輝かせながら俺を見上げた。
お、おぉ…。
なんだか眩しい…。
「聞いてもいいですか…?」
「まぁ、答えれることなら出来る限り」
つうかこいつちょっと危機感足りなくないか?
さっきまで俺に人質にされてたのに、その犯人にこんな無邪気に…。
この島には危険が少ないのだろうか。
危険が少ないのは良いことだが、危機感がないのとは別物だ。
「人間、ですか…?」
はぁ?
見た目で分かるだろ、見た目で。
そう言おうと思ったがやめた。
今のここの子供たちは人間を見たことがないのかもしれない。
「あぁ。正真正銘どっからどう見ても人間だぞ」
両手を横に広げて見せると、少年白ウサギは感嘆の声を上げた。
そんな反応をされるといい気分になってしまうではないか。
「あの、ボクはリグルって言います」
「え?あ、俺は伊吹双波」
状況が状況なだけに、頑張って作った笑顔は若干引きつったものになってしまった。
まさかいきなり名乗るとは誰も思うまい。
リグルと名乗った少年白ウサギは、少し哀しそうな顔をした。
「ボク、人間を勘違いしていました」
勘違い?
何をどう勘違いしたのかこれっぽっちも分からないので、とりあえずリグルの次の言葉を待った。
「人間は野蛮で恐ろしくて、ボクたちのことを嫌って殺そうとしてるんだって思ってたんです」
そう思うのは仕方のないことだろう。
アリスからさらりとしか聞いてはいないが、人間からの一方的な虐殺まがいなことをされてるんだ。
同じ人間として俺だって言い訳は出来ない。
どこの世界も人間とは弱い生き物なんだな。
「でもあなたは、双波さんは優しい人でした」
「俺が?優しい?お前に?」
俺がリグルを凝視すると、リグルは照れたように笑顔を見せた。
ウサギなせいか、可愛く見えるのは俺だけか?
「双波さんはボクのことを人質に取ったけど、短刀の刃の部分は外側に向けていたし、ボクの耳を持つ手が震えていました」
刃のことは認めるが、手が震えていた?
あれはリグルが震えていたんじゃなかったのか?
俺めちゃくちゃカッコ悪いじゃん。
「俺実はチキンなんだよな…」
「鳥、だったんですか…?」
「………」
マーサにそっくりなんだけど。
どんどん登場人物が増えてきましたね…。どうぞ仲良くしてやって下さいませ。