やるしかない状況なんだ
明朝。
俺たち5人(4人と1匹)は横並びに並んで、ごくりと唾を飲み込んだ。
少なからず誰しもが緊張しているようだ。
そりゃそうだろう。
人間が滅多に近付かない禁断と呼ばれる島に行こうとしてるのだ。
俺は猫耳の女の子とかいたらいいなぁという程度だけど。
別にそっちの趣味はないが、男のロマンとして。
「覚悟はいい?」
アリスの言葉に全員がもう一度喉をならし、そして頷いた。
覚悟は出来た。
つうか、俺にはそこまで強い覚悟はないんだけど。
「さぁ、行くわよ」
アリスはこんぺいとうを数粒口に含み、ガリッと音を立てて噛んだ。
それが全ての入り口の合図だった。
始まった。
この世界の終わりへの始まり。
*******
来て早々なんだと思うんだが、やってしまった。
まさかこんなことになるなんて思わないじゃないか。
悪いのはあのへなちょこトンボリスのせいだ。
あいつは神様じゃない。
自称神様だ。
でなきゃこんなことにはなってない。
来たまでは良かった。
アリスからのまばゆいまでの白い光で目が眩み、目を開けた時には畑の真ん中。
そこでくわを持っていたクマがえ?と言いたげに俺を見つめていたから、たぶんここは禁断の島なのだと思う。
だってクマだぞ。
クマがつなぎ着てくわ持ってるんだぞ。
これぞ異種族。
こんなんじゃ猫耳じゃなく、猫そのまんまが出てくるぞ…。
クマは突然現れた俺に最初こそ目をパチクリさせていたが、次の瞬間うぉー!と叫んだ。
「にんげんだぁー!!」
人間ですいませんでしたぁ!!
俺は畑から飛び出し、とにかく走りだした。
追い掛けて来るのはくわを持ったクマだ。
必死にもなる。
しかし、なぜここには俺1人しかいないのだろう?
みんなはどこに行った?
つうかちゃんと来てんのだろうか…。
そっから疑問だ。
でも来てるのだとしたら、バラバラに着陸したことになる。
護衛の意味ねぇじゃん!
クロードとリッドマン(ついでにトンボリス)はともかく、マーサはやばいぞ。
マーサがこんなクマ吉に追い掛けられたら、すぐに捕まってめったんめったんのぎったんぎったんに…。
まじでやべぇじゃん!
状況はかなり悪い。
それよりも人の心配をしてる場合じゃなさそうだ。
このままじゃクマ吉に殺されるぞ!
そこで俺はない頭を振り絞った。
そして悪事を思い付いてしまったのだ。
そこに幼気な二本足で立つウサギがいたら誰だって思い付くアレ。
考える余地などなかった。
「それ以上近付くなっ」
白いウサギの長い耳を一つに束ねて鷲掴み、クロードに護身用と渡された短刀を右のポケットから抜き出し、そのウサギの首に突き立てた。
耳を持つ手からウサギが震えているのがよく分かる。
ごめん。
まじでごめん。
身長から考えてまだ子供だろう。
小学生の男子が着てそうな服装だから、たぶんこいつはオスだ。
案の定クマ吉は立ち止まり、俺を睨みながら唸った。
田舎のような風景なこの場所は、人集りが出き初めている。
イヌやらキツネやらもう訳が分からないが、どの顔も良い表情を見せてはくれない。
「リグル…!」
人集りの向こう側からウサギの白い耳が揺れるのが見えた。
声からしてこのウサギの母親かもしれない。
胸は罪悪感でいっぱいだが、やってしまった以上もう引き下がることは出来ないのだ。
やるしかない。
「こいつを無事に返して欲しいなら俺の質問に答えろ」
声が震えていないことを祈る。
目の前のくわを持ったクマ吉は、唸りながら渋々頷いた。
「ここは禁断の島か?」
クマ吉は頷いた。
やはりそうらしい。
「俺以外に人間はいたか?」
クマ吉は首を横に振った。
まだ誰も見つかってはいないのか…。
もしくはもっと遠くにいるのかも。
どちらにせよ俺はどうやってこの状況を打破すればいいんだ…。
双波が悪人になった瞬間。