第3話:行きたいからには理由がある
「禁断の島に行きたい!?」
マーサは声を張り上げた。
その迫力に、俺はびくりと肩を震わせた。
あまりの迫力に恐怖さえ感じた。
「お、おい…、と、とりあえず落ち着け。な?」
マーサの息が少し荒いので、俺は座るように促した。
「落ち着けるかぁ!」
まさかマーサがこんなに興奮するとは思わなかった。
王子サマなのに、大丈夫か…?
それからしばらくはマーサを落ち着けるのに必死だったので、しばし省こう。
「またなんで禁断の島なんか行きたいなんて…。双波に教えたの誰?」
俺はマーサの肩に乗るアリスに視線を向け、そのアリスは小さくなって視線を反らした。
マーサはため息をついた。
「アリス…。双波は僕たちの考え方とは180度違うんだから、滅多な事教えたらダメだよ」
「…そうだったわね」
「待てコラ」
マーサが俺のペースに慣れたのか、俺の制御を始めた。
その内、俺はマーサに操られるんじゃないだろうか。
つうか、マーサってちょいちょい王子サマらしいところを見せるよな。
あんなバカ発言さえなければ、もしかしたら立派な王子サマと名高かったかもしれない。
「でも旅行がてらに行ったら面白いかも…」
……そうでもないか。
「ばーか。誰が旅行に行くって言ったんだよ。王子のくせに旅行なんか行ってる場合じゃねぇだろうが」
「ば、ばか!?」
マーサは目を丸くして俺を見つめ、次の瞬間には肩を落として俯いていた。
王子サマは打たれ弱い。
「双波はなんで禁断の島に行きたいなんて思った訳?」
アリスがマーサの頭を小さい手で撫でながら俺に言った。
気のせいかもしれないが、アリスはマーサに優しい。
神様が優しさにムラを作っていいのかよ。
「俺はアレだよ。異種族というのが見てみたい」
「双波だって旅行気分じゃないかー!」
半泣きのマーサがそう言って叫び、アリスがその肩でどうどうとマーサを宥めていた。
小動物に慰められてる王子サマの図ってどうなんだ。
俺の世界には人間しかいない。
もちろん馬とか犬とか、動物はいるけど、人間らしい行動をするのは、人間しかいない。
本かマンガかゲームの世界の話だ。
夢があっていいよなぁ。
小人みたいのとか、可愛いのとかいたらいいな。
「双波のだって理由が不純じゃないか…」
お前はガキか…。
そう言いたくなるようなマーサの言い方だった。
「…行きたいのか?」
マーサはこくこくと頷いた。
俺はアリスと視線を交わし、2人(1人と1匹)とも疑問を持った顔を向き合わせた。
「なんで行きたいの?マーサ」
アリスは優しくマーサに問い掛けた。
マーサは膝の上で手をもじもじさせた。
「何も知らないままこの島のために戦争起こすのはどうかなって、思って…」
マーサの若干の口籠もり方が、俺をイライラさせた。はっきり言えよ。
「その島がどんなのか、僕も知りたいんだよ」
俺の心の声が通じたのか、今度は先よりも幾分か強めに聞こえた。
「なんで今まで思わなかったんだろう…。禁断の島を視察するべきなんだよ、その島が欲しいのなら」
強い何かを秘めた顔。
決意を持った言葉。
こんな王子なら俺は支えてやってもいいかも。
な、クロード?
「あぁ、そうだな」
俺は顔を緩めながら首を縦に振った。
このマーサは頼もしいじゃないか。
「双波、ありがとう」
「うわ、なんだよいきなり。気色わりぃな」
「双波!」
ほら、アリスはマーサに優しくて俺に厳しい。
禁断の島編かな。どうぞ宜しくお願いします。