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終焉の真紅(葉)  作者: A-YAG
1/1

"1 cold brain.

深夜。人気もまばらで 大都市の中央だというのに静寂が支配しているこの場所で 少女は一人、大きな血溜まりの中でサイコパスな微笑みでいた。


壊れたんじゃない。


おかしくなったわけじゃない。


面白いわけでもない。


ただ、そうして過ごすのが最適だと思って 反応して そうなったのだ。だから、私がなぜ、微笑んでいるのか尋ねられても「わからない」としか言いようが無い。


足元に広がる真紅の血溜まりは、深夜でもわかるほどに街灯で照らされて反射していた。そして、近くに見える倒れている少女を私は冷たい視線で見下ろしていたのだった。


「君は、知っていたんだよ。だけど、理解できないでいた。 だから、今があるんだ。 そして、私は知って成長したと思う」


紅い足跡を残しながらもその場を去ると、処理する作業員がその場をキレイにして 振り向くとそこには何も残ってはいないのだった。

足裏に残る、霞んだ色が わずかに記憶として残るだけで...


***

2045年。アニメで見たような世界が具現化した中で、残酷なまでに人々は繋がりや共有を好み、常識となった。個人情報の保護を求めながらも、裏では晒していくような世界を私は傷口に塩を塗り込むことに快感を覚えた者のようで不快だと思っていた。


だけど、健康であることを重視したこの社会では趣味嗜好へと逃げることもできずにいる。だからこそ、デバイスである身体は健康であるのに、ソフトウェアである精神は病み続けて行く。


せめてもの救いとして、温かい人間関係があればよかったのに。 一人、冷静に現実を分析してしまって知ることがなければよかったのに。そう思うと、冷たい涙が流れるのはここだけの話だ。


「1週間くらい私達帰らないから しっかりするのよ。戸締まりも忘れないでね」

いつもの朝食。食卓。 雰囲気からも自分とは違う優しい姉は、モデルだ。一つ年上の姉は、高校に通いながらも撮影やイベントへと参加している。ネットを見る限りではそれなりに有名で人気らしい。

「わかった」

「お前も、素材は良いんだからもっと明るくならないとな」

陽気で悪気のない健康的な精神を持つ父は、そう笑った。朝食に出ている冷凍食品のスコッチエッグがお気に入りで美味しそうに食べながらも手に持って読んでいる雑誌は、父に似合わない女子向けのものだ。

「華(姉の名)は、今度夏服を着ているんだね」

そうよと嬉しそうに応える姉と微笑む母とともに、自分が排除されているような気分でいた。


「そうだ、葉? 1週間出かけることいい忘れてたのに文句一つないのはなぜかしら 怒るなり泣くなりするでしょ?」

昔なら、そうだったのかもしれない。だけど、そのうち考えることも放棄して 自分のことが第三者的な感覚へとなっていってからは、特に感じることもなく 興味がなかった。


「別に...大丈夫だよ」


玄関を出て見上げた空は毎日変わることのない真紅で、振り返って見える両親や 靴を履いている姉を見るとそれは影のようにノイズがかっていた。それを気にしては行けない気がして、前を向いて歩みをすすめる。


私は、正常だ。


問題はないのだと思いながら。




だからだろう。

帰宅して誰もいない家の自室で、端末の電源をつけネットサーフィンをしていると 深夜アニメのおすすめで表示された魔法少女系の紹介ページに見とれていた。


魔法少女が、深夜の大都市で魔獣と戦う物語。自らの願いを対価に戦う様子には冷たく残酷だと思いながらもだからこそ美しさがあるのだと思いながらも記事を読み進めている内に時計を見ると まだ夜の10時だと。

「魔法少女にはなれないけど、気分だけなら味わえるかも」

幸運なことに、翌日は土曜日で休みだ。終電を逃したとしても問題はないと考えた私は、財布と携帯端末とそれなりのものを持って出かける。


駅前の家というだけあって人通りがあるものの、家路につく人が多い中で出かけるというのは異質な気分で、特別な気がした。


副都心駅を出て、人通りの多い地下街を通り抜けて行くとオフィス街へと出る。外の空気が冷たく髪が靡いて目を閉じる。


車の音がかすかに聞こえるだけで、高架の電車が過ぎていく。


「静かな世界...」


ただそれは、嵐前の静けさなのだった。

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