第6話 アゲハチョウ【3】2016/11/6
研究所の怪しげな本から生まれ落ちたあたしは、思考もおぼつかず、特にすることもないので所内をぶらぶらしていた。カブトムシさん達は作戦がどうこうとかで他所へ行ってしまった。
誰かと会わないかなと散策してみるが、だだっ広い割に人影が見えず、廊下は静まり返っている。周囲の部屋を見ても、会議室や資料室、何も用途がなさそうな空の部屋ばかりなので、居住区域を探してみることにした。
後で知ったことなのだが、アゲハチョウを入手した段階では、昆虫少女は20余名しか所属していない新米研究所らしく、部屋を持て余していたらしい。
それから数分後、1人の少女と遭遇した。どうやら向こうはこちらを知っているらしく、にこやかに距離を詰めてくる。
「あなたがモンシロチョウさんね、ようやく仲間にできたのかぁ、よろしくね」
「あの、あたしは、アゲハチョウという名前らしいです」
「ふーん、探してた方じゃないのか。ごめんね、幼虫体までは見分け方知らなくて。でもわたしの名前は何となくわかるんじゃないのかしら」
「えっと、ごめんなさい」
「大丈夫大丈夫。必要な記憶はインプットされているはずだから数時間経てば思い出せるはず。わたしはショウリョウバッタ、バッタ目はまだわたし1人だけだけど、いずれ大所帯にして見せるわ」
「あ、はい」
「チョウ目もあなたが最初のはずよ、お互いに戦闘もまだでしょう? レベル1同士仲良くしてね」
「え、ええ、よろしくね、ショウリョウバッタさん」
「んー、まだちょっと固いわね。アゲハ、わたしの部屋にいらっしゃい、聞きたいことがいっぱいあるだろうしお茶会でもして親睦を深めましょう」
どうするか悩んでいると、所内一体にカブトムシさんの声が鳴り響いた。
「ただの所内放送ね、そんなに怯えなくてだいじょぶよ」
「あの、今あたしの名前呼ばれませんでした?」
「わたしも呼ばれたわ、急ぎの用みたいだし、きっと作戦メンバーに選ばれたのよ。急ぎましょ」
「作戦って何の作戦なんですか」
「えっとね、たぶんモンシロチョウ入手のための、戦闘要員として召集を掛けられたってとこかしら」
「戦闘!? む、無理ですよそんな、ついさっきここに来たばっかですよ」
「わたしは配属されて5日目ぐらいだけど、能力に差はないし心配いらないわ」
「お、お茶会の方を優先しませんか」
「馬鹿言うんじゃないの、命令に従わなきゃここにはいられないわ」
無理やり手を引っ張られ、絨毯の敷かれた立派な部屋にあたし達は到着した。
室内にはカブトムシさんと、先程図鑑の部屋にいた人達の内の1人、そして見たことのない小さな娘の3人が待っていた。