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魔物退治

冒険者ギルドの中。綺麗に磨きあげられた石のような床の上を恐る恐る歩くと、コツ、コツ、と小さな音がする。少し耳に響きが残るその音をなるべくたてないようにそっと歩いていると、ラッセルが隣でピタリと歩をとめた。


「ん?どうしたの?」


ふと顔を見上げてそう問うと、ラッセルが強く唇を噛み締めているのが分かった。


「…あいつ…」


レンガルさんのこと、かな?そう自分の中に言い聞かせつつ黙って様子を見ていると、ラッセルが私の手をぎゅうと握り締めた。


「…ラッセル?」


「あれがもし、本当なら…本当なら。俺はどうすれば…。」


あれって。さっき受け取っていた情報のことだろうか。


「……ラッセル?」


「くそ!」


ばん!と地団駄を踏む音が室内に響く。その音は周りの人に吸収されてすぐに消えたが、ラッセルの感情は全く落ち着いていないように見えた。


…どうしたのだろう。


「…」


暫く、お互い無言の時間が続いた。心ここに在らずなラッセルに、話しかけてはいけないような気がして。時間にしては数分、でも私には何時間にも感じられる時間が過ぎたあと、ふとラッセルが私の手を握る力を緩めた。


「…ラッセル、大丈夫?」


「…あぁ、ごめんな。取り乱して…」


困ったように少し眉を下げて笑顔を見せるラッセルだが、その表情から不安そうな雰囲気は全く消えていない。


「…さっきの。レンガルさんから買った情報は何だったの?」


「…なんでそんなこと聞くんだよ?」


「だってラッセル、あの紙を見てから様子が変だから。何か、大変なことが書いてあったんじゃないかなって…」


そう聞くと、ラッセルは困ったように小さく首を横に振った。


「大したことじゃ、ないんだ。何となく想像できてたし、ただそれを根拠付きで突き付けられると流石にちょっと堪えたってだけ。」


「…そっか…」


きっと私にはまだ分からないことだ。この世界のことも、パーティーのことも、何も知らないんだから。そう判断して少しだけ俯くと、頭の上に軽く彼の手のひらが置かれた。


「シェイラは気にしなくていいんだからな。俺が勝手に情報集めして、勝手に驚いてるだけなんだから。俺が始めたことだし、受け入れなきゃいけないのは俺だから。」


「…うん、分かった。」


こくり、と頷くと、「それでよし」と笑ったラッセルに手を引かれる。


「こっちこっち。とりあえず簡単な討伐依頼受けに行くから着いてこいよ!」


「うん!」


…ねぇ、ラッセル。まだ私には何も教えられなくてもいいから、1人で苦しまないでよ。


そんなことを心の中だけで呟いて、私は自嘲気味に唇を歪めた。




「Eランクの討伐依頼ありませんか?」


受付でラッセルが提示されたカードを眺めながらそう尋ねると、受付の女性が少し首を傾げた。そのまま数秒間、ラッセルをじっと見つめる。


「Eランクですか?ラッセル様ならばCランクでも可能だと思われますが…」


「今日は新入りを連れていくから、なるべく簡単なところにしたいんです。」


「かしこまりました、少々お待ちくださいませ。」


受付の女性が私を見て、納得したように頷く。彼女が姿を消すと、ラッセルが私を手招きした。彼に近付くと、横にあった紙とペンを渡される。


「ここに、必要な事書いておいて。そしたらシェイラの登録もできるからさ。」


「うん、ありがとう!」


渡された紙の必要項目をさらさらと埋めていく。その間にラッセルは戻ってきた受付と何やら話し込んでいる。私はさっさと紙を書きあげて、ラッセルの元へと向かった。


「ラッセル。」


「お、書けたか?」


「うん。」


頷いて紙を渡すと、ラッセルがざっと目を通してから受付に渡してくれる。私はそれを見守るのみだ。特に不備はなかったようで、直ぐにカードが発行される。


「…『レクリアーム』?」


自分の名前が刻まれたカードの最上部に書かれた文字に眉を顰めると、ラッセルがにこりと笑った。


「俺達のパーティー名。その欄は、所属しているパーティーの名前が入るんだ。」


「なるほど…それで、ラッセル。これはどうしたらいいの?」


くるくるとカードを裏返しつつそう聞いてみると、ラッセルは少し首を傾げてから肩を竦めた。


「自分で持っていればいい。依頼とか受けるとその依頼に応じてランクが上がっていくから、ここで依頼を受けるには必須なんだ。逆に、そのカードを持っていない冒険者に依頼をすることは禁止されてるしな。」


「そうなんだ!ありがとう!」


冒険者、という言葉の響きに少し微笑む。日本にいた時にはライトノベルなどでしか縁がなかったものに、自分がなっているということ。それだけでわくわくするし、これからがとても楽しみに思える。そんなことを考えていたら、ラッセルにくいと腕を引かれた。


「今日は俺の力見せてやるから。ついてこいよ。」


「っ、うん!」


私はラッセルに導かれるままに走り出した。冒険者ギルドから出て、森の方角へと進む。パタパタと分かれていた足音が段々と重なって1つになる。段々と周りが暗くなっていき、木々の間にちらちらと光がさすだけになっていく。私が少し不安を感じた瞬間、ラッセルが足を止めた。


「…これ、本当にEランク討伐か?他のヤツとは全くレベルが違う…」


「え?」


「シェイラ、下がってろ!」


「え!?」


何が起きたのかなんて、冷静に確認する暇はなかった。勢いに押されて数歩後ろに下がる。グループに無理やり入れられそうになったあの時のように私の前に立つラッセルを見て、私はゴクリと唾を呑んだ。


「相手が魔獣なら抵抗はない!『ルワリエーレ』!」


どぅうん、と地響きをさせながら十数メートル先の地面が爆発した。飛んでくる砂埃に思わず腕で目元を覆う。だがその魔法を避けたのか、いくつもの黒い影がラッセルに襲いかかろうとしている様子が目に入った。


「ラッセル危ない!」


「シェイラは下がれ!」


「でも…っ」


私はどうしようもなく無力だ。後ろで守られているだけで、手助けもできず足でまといになっている。珍しい能力を持っていると言われても、使えなければ意味が無いのに。そう考えている間にも、ラッセルは魔物に押されて段々と力を失っていく。


「…っ、ダメだ、ここじゃ…っ…剣が全く使えない…『ルワリエーレ』!」


爆発音は止まないが、魔物がやられる雰囲気はない。むしろ、次々と現れてどんどん増えていく。ラッセルの歯噛みするような様子がつらい。どうにか助けられないものだろうか。下がっているようにとは言われたが、だからといってこんな状況で大人しく待っていられるほど私は図太くない。


…どうか、どうか。ラッセルに助けを。


心の中でそう祈り、手を握りしめる。何も出来ない、祈るだけしかできない自分が恨めしい。するとその時、自分の身体の中で何かが動くのを感じた。


…あ、これ魔力だ。


何も知っている訳では無いけれど、感覚で分かる。恐らく、ラッセルを助けたいと思ったから現れた魔力反応。私はその動くものをゆっくりとコントロールして、手元に集めていく。


…増幅魔法、なんだっけ。出てくる前に見たはずだ。特定の人の魔法を強化して増幅させる…


その間にもどんどん力は強まっていく。私は限界を迎えるギリギリで、彼の名前を叫んだ。


「…ラッセル!」


「何だ?!」


「行くよ!」


「はぁ!?何を…って、お前…っ」


叫びながら振り返ったラッセルが、理解したようににやりと笑った。好きなタイミングで来い、と叫んで少し魔物から距離をとる。私はそのラッセルから更に少し距離をとって、目を閉じた。


「……」


「…」


「…行くよ!『ハルツモーナ』!」


そう叫んだ瞬間、ラッセルの目の前にいた黒い魔物たちが一瞬で塵になった。きらきらとカラフルな粉のような物が舞って、消えていく。呆然としていると、目の前が真っ白になった。魔力の使いすぎ…とかかな?日本で読んだライトノベルでよくあるパターンを思い出して、私はさっきまで私の中を動き回っていた魔力を動かす。なくなった訳ではなく、単純に一気に使いすぎた弊害らしい。少しほっとして体の力を抜くと、その場に崩れ落ちてしまった。


「シェイラ!」


ラッセルが駆け寄ってくる。おつかれさま、と口を動かして、私はその場で昏倒した。



お久しぶりです。今回はラッセルとシェイラが戦ってました。魔物と。何故レベルの低いはずの討伐依頼で強い魔物と遭遇したのか…。


次回をお楽しみに。

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