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物語の始まりの日。

前回の続きです。

このページを開いてくれたことに感謝します。

お楽しみ頂ければ幸いです。

「ねぇ~萌依~!」


合格発表からの帰り道、私はふらふらと萌依に寄りかかった。目を丸くして私を見る親友に、ふにゃりと笑ってみせる。


「どうしたの?」


「もう嬉しすぎるよ!合格できるなんて…これで、また、萌依と学校通えるよ…!」


半泣きでそう言うと、萌依はくすくすと相変わらず控えめに笑って私の肩を軽く叩いた。


「私も嬉しい。茉耶とまた、一緒なの。」


「やったぁ!」


にこにこと微笑む親友がただ可愛くて、私は思わず萌依の顔を見詰めてしまう。どんな時でも、私の1番近くに居てくれたのは萌依だった。中学に入った時も、部活で悩んだ時も、失恋した時も、受験で今の高校を受けると決めた時も。気が付けば萌依が居ない生活など想像できないというくらい、私の傍には彼女が居た。そして、これからも。私が過ごしていく中で、萌依は必要な存在で。私は萌依からも同じように思ってもらえているだろうか?


そんな風に不安になったのは一瞬だった。萌依の笑顔を見ていれば、私の存在を受け入れてくれていることが分かるから。萌依が私を必要としてくれたことも一度や二度ではない。それはきっとこれからも。


「あ、じゃあ私こっちから帰るから…」


「うん!また今度ね。春休み中に1回は遊べるといいね!」


「合格祝いでどこか出掛けたいね~、後でまた連絡するね。」


「わかった!じゃあまたね!」


後ろを振り返り振り返り、萌依が自分の家の方への走って行く。隣が空いた不思議な寂しさに私は首を竦めて、家までの道を急いだ。




「あ、ここ…」


立ち止まったのは家から1番近い小さな神社。受験前もここに来て、合格するようにお祈りをしていた。私にとって1番近い存在の神様、それがこの神社だった。


…合格しましたって報告も兼ねて、お参りしてから帰ろうかな。


こつこつと小さな音を立てて石段を登っていく。小さい頃は永遠にも感じられるほど長く感じた階段だが、今となっては大した距離ではない。懐かしい周りの様子を眺めながら階段を上がっていくと、最上段に差し掛かった時、どこかから小さな悲鳴のようなものが聞こえた。


「!?」


咄嗟に周りを見渡すも辺りには誰もいない。不審に思いながらそっと神社の裏を覗くと、そこには見慣れないものがあった。


「こんなところにこんなものあったっけ…?」


通路を思い切り塞ぐ位置に立てられた大きな鳥居。形自体はそこらでよく見かける鳥居とほぼ同じだったが、とにかく大きい。

定期的に通る場所だが、ここに鳥居があった事など知らなかった。私は不思議に思いながら鳥居の向こう側を見詰める。奥には何も見えない。トンネルの入口のような場所にその鳥居は立てられていた。


…何故だかは分からない。でも、ここから進んでは行けないような気がした。鳥居の向こうから薄ら感じる違和感、まるでこの先は死後の世界なのではないかと思うような。でも同じくらい。この先に何があるのだろうという興味も抑えられない。暫く逡巡した後、私はそっと周りを見渡した。…誰もいない。


私を引き留める存在はいない。それと同時に、私がこの先で何かに巻き込まれたところで、助けてくれる人もいない。


私は強く手を握りしめた。たかが鳥居を潜るだけのことに、こんなにも悩む必要があるのだろうか。行き止まりなら戻ってくればいい、ここで少しくらい時間を費やした所で何も問題ないだろう。その思いが私の背中を押した。


「…よし、行ってみよう」


私は思い切って鳥居を潜った。


「…え?」


予想は大幅に外れた。要するに、何も起こらなかったのだ。


「なーんだ。」


鳥居の先はただの真っ暗なトンネルで、特に種も仕掛けもなさそうな場所だった。よく見ると、遠くには小さな光が見え隠れしている。


「向こうに通ってる!行ってみよう。」


光を見つけた私は何も考えずに走り出した。そう、この時は、この後何が起こるかなんて何も知らなかったから。


「到着っ…!?!?」


光…トンネルの向こう側に辿り着いた瞬間、私はその場の余りの眩しさに座り込んだ。目が開かない程の眩しさ、身体を焼き尽くすような熱さ。冷静に判断する余裕もなく、必死に呼吸をするだけで精一杯だ。


「だ…だれ、か…」


助けて。心の中で必死に叫んでもそれが声となって出ることはない。喉が焼き付くほど熱く、空気が通るだけで苦しい。もう死ぬのか、とまで考えたその瞬間。頭の中で低い声が響いた。


『私ならお前を助けてやれる。どうだ?』


誰。貴方は誰なんですか。何者なんですか。心の中で必死に返事をすると、その声は私の気持ちを読み取れるのか、あっさりと返答してきた。


『私はこの国を治めている者、とだけ名乗っておこう。ところで、君はまだ、生きたいか?』


勿論、生きたいに決まっています。こんな所で死にたくなんてない。


『そうか、そうか…。ふむ、お前はこの世界に必要である、がしかし、その反面、害を与えることになるかもしれない。…それでも、お前に助けを与えようと考えたのは私だ、特別にこの世界で生きる力を与えよう…。』


この世界で生きる?

その言葉にほんの少し引っ掛かりを覚えたところで、私の思考回路は先程の声に遮られた。


『くく…余計なことは考えないでいい。生きたいのであれば、今すぐ身体から力を抜きなさい。そして目を固く閉じ、頭を空っぽにするのだ。』


ここまで来ると、もう諦めの境地だった。抗えば抗うほど体にかかる負担は増えていくのだ。言われるままに体から力を抜く。

すると今までぼんやりとでも存在していた思考がすぅっと抜け落ちていき、私はそのまま気を失った。



ーーー



…どのくらい時間が経っていたのだろうか。


目を開けるとそこは見慣れない世界だった。妙に明るく、カラフルな世界。そして何やらガヤガヤと騒がしい。ここはどこだろう、さっきまでの声の人は誰だったのだろう。そしてどこへ行ってしまったのだろう。彼は私に何をしたのだろう。暫く考えている内に、さっきから妙に注目を集めているのは自分だということに気が付いた。


…そりゃ、こんな道端で倒れている人がいたら驚くよね!?

慌てて立ち上がり、ぱたぱたと服の汚れをはらう。

…って、この洋服何!?

明らかに合格発表の時とは服が変わっていて、私は思わず周りを見渡す。周りに居るのは…うん、私の挙動不審な様子を気味悪そうに見つめる人々ばかりだ。でもそんなことはどうでもいい。なんで私洋服変わってるの…?ここは、どこ?


頭がこんがらがるが、それではきっと理解できない自体が起きているのだろう。必死に冷静になってあの声を思い返す。確かあの声は、「この世界で生きたいのならば」と言っていた。この世界、という言葉に引っ掛かりを覚えていたが、ここが私の元の世界と違うことは明白だ。ということはこの洋服はこの世界で生き抜くための標準装備、ということだろうか?むーん、と考え込む。

この服は一見すると冒険服のようなものだ。太腿の辺りにポケットがついていて、腰のベルトにはナイフを刺すための袋もあった。間違いなく冒険を意識した服装と見ていいだろう。でも、何故…。思考が堂々巡りし始めた時、誰かに声を掛けられた。


「そこの…君、どうしたんだい?」


1人の男性が、私の顔を覗き込んでいた。グレーの柔らかそうな髪の毛で髪型としては普通、水色寄りのグレーの瞳は少し垂れていて優しそうな雰囲気を醸し出している。


「えぇと、私、色々あってこの世界に紛れ込んじゃったみたいで…ここは一体、どこなんですか?」


特に深く考えず、頭に浮かんだことを声に出す。まずはここがどこなのか知りたい。相手のことも、何も分からないけど、道端の人に道を聞くようなものだ。するとその男の人は目を見開いた後、小さく何かを呟いた。小声すぎて聞き取れなかったが。


「え?」


「あ、あぁ、いや、なんでもない。ここはレーベル王国という場所だよ。…君のような人は珍しくない。詳しく話をするから、付いてきてくれないか。」


きょとんとした私に対し、彼は困ったような笑顔を浮かべて、軽く手を伸ばしてきた。貴方は誰、と問いたいけれど彼の目から敵意は感じない。むしろ純粋に私を助けようとしているように感じる。そんな相手にあからさまに警戒心を向けるのも筋違いな気がした。

少しだけ考え直してみる。この世界から帰ることを。目が覚めたらここに居たということはこの近くにこの世界への入口があるのではないか?そう思って周りをゆっくりと見回す。それらしきものは見当たらなかった。あの神社の鳥居も、長いトンネルも。戻れる気はしない。何も分からないし、何も持っていない。そう考えて気づいた。もう後戻りは出来ないのだろう。薄らと感じるその予感に少しゾッとしつつ、私は頷いて彼の後に続いた。

促されるままその男性について行く。歩いていく道の途中でも、チラチラと視線を感じる。何故だろう、私にどこかおかしな所があるのだろうか。不思議に思いつつも歩き続けると、辿り着いたのは小さな洞窟だった。


「…なんだと思うかもしれないが、危険はない。入ってくれ。」


「はい!」


ここまで来たらもう開き直るしかない。いっそのこと笑顔で過ごしてやろう。そう思った私は満面の笑みを浮かべて頷き、1歩踏み出した。我ながら凄いと思う。


「…君は…」


男性の不思議そうな声が鼓膜を震わせる。どうしたんですか、と聞けば、彼は目を丸くして首を竦め、なんでもない、と一言言っただけだ。


「さぁ、ここだ。」


「……っ!」


真っ暗な洞窟だと思っていた場所の奥には、丸くて明るいスペースがあった。広さとしては教室ひとつ分くらいだろうか。そしてその中では数人の男女が思い思いの場所に座り込んでいる。


「シュバルタ、その子誰?」


1人の女の人が私を見てそう言った。その瞬間に、他の人達も私に視線を向けた。一斉に好奇の視線に晒され、少し体を強ばらせる。


「…」


シュバルタと呼ばれた彼はその質問には答えず、私を振り返って微笑み、言った。


「紹介しよう。彼らは、私の所属するパーティーのメンバーだ。」



ご覧頂きありがとうございました!

やっと物語の本題に入れた感じになりますね。

これからがメインストーリーですので、少しでも興味を持ってくださった方は次も読んでいただければ嬉しいです。

では次回またお会い致しましょう。


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