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千波と  作者: 久木
13/13

二人で新年会

今回の場所はワインバー。彼女が昔行って良かったと言ったので、その店に決めたのだ。


待ち合わせはいつもの時計台。千波は、キャメルのコートの前を開けながら、黒いタートルネックのセーターに、花柄のスカートと言う出で立ちで現れた。今回は私が仕事の都合で彼女を待たせてしまった。待ち合わせ場所へは当然走っていった。

「森山さん、ごめん!…待ったよね?ホントにごめん。」

「くわっち、私も定時上がりってわけじゃないから良いんだよ(笑)」


そう挨拶を交わして、店に向かった。入って早々、隣の席では合コングループが飲んでいて、その中でもキザ系の男が、千波を満更でもない目付きでチラッと見てたのが、私は少し得意な気持ちになった。


二人で早速、ワイン飲み放題を注文した。しかし私はすぐに、一杯目は何故かビールを頼んだ。軽い気持ちだったが、珍しく千波がムッとしたので、しまったと思った。しかし、千波も機転を効かせてハイボールを頼んだ。しまったなぁ(笑)


二人で乾杯したあと、私は買っておいたゴディヴァチョコを渡した。ホワイトデーなのと、いつもの感謝を込めてのことだ。プレゼントがいつもの事になってるので、そろそろサプライズは趣向を変えようと思う。

千波との話は仕事の話が中心だった。職場の直属の上司のやり方が堪えられないと。自分の血液型はA型だけど、Oが入ってかなりおおらかだから、細かい話する上司は得意じゃないと。はたまた一見のお客さんへの自分の対応がうまく行っただの、今の職場の話が殆どで、私は彼女が頑張ったと話すたびに、誉めつつ相槌を打っていた。

それから話は昔話に遡り初め、新入社員だった頃の話へ移り、その頃の恋人の話や、未練はないと言いつつも今も気になっている様子や、昔の進学の話に移った。

私はと言えば、今の職場では毎日所長にやられてばっかりだが、絶対に負けたくないこと、新たに資格取得は目指す事に決め毎日勉強してる、5年たって受からんかったらやめる、と話した。もし受かって独立出来たら一緒に事務所やろうと冗談混じりに言った。

千波がお手洗いに行ってる間に会計を済ませ、店を出た。千波は、終電有るから帰ったら?と勧めてくるが、私も、もう1軒と笑って譲らない、そうすると千波もじゃあ1杯だけね、と言う。そんなやりとりをしつつ、2軒目を探した。


そしてカラオケに入った。バーがいっぱいだったからなのだが。とりとめのない話を聞きつつ、千波は終電で帰ると言ったので、その時間まで過ごすことにした。千波は10月の飲みの時に連れてきた後輩(田川)とよく飲みに行ってるようで、今もほぼ毎週飲みに行ってると、また電車も毎朝会うとの事だった。千波は田川の気持ちに気付きつつも、仲の良い後輩で留めて置きたく、1番にはしたくないのも見てて分かった。おそらく、ここまで関係が近くなると、友達として安定し過ぎて逆に進展しなくなるのだろう。千波の好みは、男気あって一緒に居て楽しく、仕事の出来る、背の高い、自分以上の年齢の男を求めている。なかなかわがままだ。姉の夫が弁護士だと敢えて言っていたのは、夫の仕事でどこかで自分も負けたくない気持ちがあるからだろう。


そんな私と千波の関係は、時々お互いをつまみ食いしたくなる、あとぐされのない関係であり、お互いに3番手ぐらいにしておきたいと言うのが本音か。

そんな事を考えながら、千波の話を聞きつつ、適当に相槌を打っていたら、千波の輝く唇に目が止まった。千波は尚も話し続けている。ふと私は千波にキスしたくなった。キスしたらどんな感触かと、きっと蕩けるような舌なのだろうと、その感触をリアルに想像し出していた。しかし、それは踏みとどまった。席を詰めて良さそうな雰囲気もない、千波の気持ちが分からなかったし、関係が壊れてしまうのが怖かったからだ。今日は帰ろう、自分の歯止めが効かなくなる前に、と思った。


そうしてカラオケでは何も唄わず出た。今日は雨も降ってないから、この前みたいに千波を抱き寄せて歩く事もない。そのまま地下鉄の乗り口まで来た。

別れ際、この前は勢いで抱き締めたが、今日はどうしようか、千波と立ち止まって向かい合う迄の少しの間、考えていた。千波も緊張してるのか口数が多いが、もう何を話してるのかよくわからない。

私はにっこりと微笑みながら、実に落ち着いた気持ちで千波を見つめていた。千波は懸命に話しながらも、握手して別れるか迷ってるのか、手を少しだけ出してる。


優しく抱き締めた。


千波は待っていたように、私の左耳の後ろで「くわっち、優しい」と言った。今回は千波が強ばってないのが分かった。

今までの会話の流れは関係なかった。やっぱ期待しててくれたんだ。

キスするか迷ったが、それは次回にお預けしよう。

少し離れて千波を見つめ、微笑み掛けながら、今日はありがとうと言った。


そして千波を改札まで見送り、彼女は改札に入ってからも2回振り向いた。私は彼女が見えなくなるまで見つめていた。


それから私は近くのネットカフェに泊まることにした。寝床について、今日は楽しかった、ありがとうとLINEを送る。


毎日じゃない、時々会うから、よりその一瞬を輝けるように大切にする、そうなる様に準備し、心掛ける、だから二人きりの時間が輝く、だから一層千波にときめく、そう思えた時間だった。


次は4月に会おうと連絡が来た。

しかし、いつも如くと言うのか、仕事やら何やらで調整が着かず、結局4月は会えそうにない。でも焦ってはいけない。追えば退く。だから、じっくりと機が熟すまで待ってやる。千波が、そんな余裕有るぐらいの距離感が心地好いと思っている事も、私は知っている。


二人で会うようになって丁度1年が経った。これから千波との関係がどうなるかは分からない。いつかぱったりと会えなくなるのだろうか。このままの仲の良い飲み友達を続けていくのだろうか。それとも愛し合うのか。

どんな関係が待っていようと、千波とはこれからも会い続けたい。彼女を楽しませたい。命有る限り、時々で良いから、彼女と楽しい時間を過ごしたい。今はそう思う。

時が来たら、もし伝えることが許されるなら、千波との時間がとても大切で幸せな時間なのだと、千波の存在がとても大切なかけがえのない存在なのだと、恋人でも何でもない、でもそんな事は関係無い、私は君にこれからも会い続けたい、そう伝えようと思う。

千波との思い出は、この食事が今のところ最後です。

4月、巷で騒がれるコロナウイルス騒ぎで、次の食事を延期せざるを得なくなりました。にっくきコロナ。


千波に対する自分の気持ちを整理したくて書きました。彼女とは、恐らく友達として付き合うべきなのでしょう。しかし、募り出した思いが有るのも事実であり、自分の気持ちが暴走しない様にするためには、こうした文章と言う形で発散するのが良い手立てなのだと感じてます。

愛人や、単なるセフレとは違う、プラトニックな男女関係。お互いがアラサーで、それなりに恋愛を経験してきたのでしょうが、そんな二人が身体の繋がりも無く、また今や職場も通勤も違う=日常の接点が無いのに、お互いに気が向いたときに会い続ける。よく続いているなぁって個人的に思ってます。お互いが、重くならない様に(どっちかと言うと私の方が)、一線引いて会うからこそ、続いてるのかもしれません。

また、進展したら更新しますが、今のところはこれが最後です。


長々とお付き合い頂き、ありがとうございました。

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